2013年12月にIBMが買収した高速ファイル転送ソフトのAspera。大容量ファイルの高速転送をサポートするこのソリューションは、多くの企業が抱えているボトルネックを解消するだけでなく、ビジネスの変革ドライバーとなりうるという。高速ファイル転送がビジネスをどのように変えるのか。
グローバルな情報共有基盤がビジネスを変える
2009年に公開され、歴代1位の興行成績を上げた「アバター(Avatar)」という映画を覚えているだろうか。3Dの映像がスクリーンから飛び出し、観客を圧倒した。アバターは作品的な素晴らしさだけでなく、デジタル3Dシネマの到来を告げたという意味からも、まさに画期的な映画である。
この作品の制作は、ロサンゼルスとニュージーランドのスタジオを使って進められた。ここで問題になったのが、毎日のように制作される高画質の映像データを、両スタジオ間で送受信する方法だ。アバターを制作したジェームズ・キャメロン率いる制作会社ライトストーム・エンターテインメントは当初、FTPや人手を介した配送によってデータを運んでいた。
しかし、海をまたいで大容量のデータをFTPで送るには時間がかかり、安全性にも問題があった。人手による配送も時間がかかるうえに、ディスクが破損するといったトラブルもつきまとっていた。
そこで同社が導入したのが、高速でファイル転送を実現するIBM Asperaソリューション(以下、Aspera)だった。Asperaによってギガバイトからテラバイト級の大容量のデータを高速かつ安定的に送信できるようになった。Asperaはアバターの宣伝にも利用され、映画の配給会社のサーバーで集中管理された宣伝用の映像コンテンツを世界中の広告代理店に全自動で配信し、コストと手間を大幅に削減することができた。
こうした拠点間の大容量データ転送の課題は、製造業が本格的にグローバル化を図る際にも大きな障壁となる。劣悪な通信環境が足かせとなって既存のIT基盤を有効に活用できず、大量のデータを拠点間でリアルタイムに共有できなければ、その分開発や生産のリードタイムは長くなる。さらに拠点間の時差の影響でリードタイムが長くなることがあれば、そのスピード感はグローバル競争下では致命的だ。大容量データの高速転送は、グローバル展開につきまとう、拠点の拡散によるリードタイムの長期化という課題を軽減する。
実際に、Asperaのファイル共有ツールと高速同期ツールを導入することによって、通信事情の悪い地域を含めたグローバルな情報共有の基盤を構築し、顧客や取引先に大量の製品や設計のデータをリアルタイムに提供する日本の製造業も出てきている。こうした取り組みは他社との差別化につながり、グローバルな競争力を高めることにもなる。
IBMがAsperaを買収したのは、2013年12月。Asperaは2004年に設立され、すでに顧客数は2000社を超える。これまでは主にライフサイエンス企業やメディア、ゲーム企業など、大容量の画像や動画データを扱う領域で利用されてきたが、IBMではこのAsperaを「Smarter Commerce」(スマーター・コマース)のソリューションとして位置づけている。
Asperaの強みはどこにあり、大容量データの高速転送によって、どのようにビジネスを変え得るのか。同社のシニア・バイス・プレジデントのケイリー・カペス氏に話を聞いた。