マーケティングや予知保守などの分野でさまざまな企業がビッグデータ活用に取り組み始めた。一方で、アナリティクスの進化も目覚ましい。企業の活動エリアがグローバルに広がり、ビジネスの複雑性が増大する中、意思決定の裏付けとなるデータの重要性も高まっている。こうした時代の変化に対してビジネスパーソンはいかに向き合うべきか。多くの企業で社外取締役を務め、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授でもある夏野剛氏と日本IBMのビジネス・アナリティクスをリードする2人のキーパーソンが語り合った。
意思決定者がデータを扱えるようになるか、データを扱える人が意思決定者になるか
京田 最近、IBMがCMOを対象に行ったアンケート調査で、期待されるテクノロジーをお尋ねしました。結果は1位がアナリティクス、2位がモバイルでした。今、マーケティングだけでなく、さまざまな分野でアナリティクスへの注目が高まっています。ビジネスだけではありません。たとえば、錦織圭選手が準優勝を果たしたテニスのUSオープン。全米テニス協会とIBMは毎年、試合に関するさまざまなデータを提供しており、多くのテニスファンに喜んでもらっています。
夏野 データが役に立つことに気づいてもらううえでスポーツほど適した材料はないと思います。以前であれば、野村監督のID野球。当時と比べればデータ活用の手法や技術は格段に進化しました。リアルタイム性も高まっています。リアルタイムのデータ活用により、大きな価値を創造することができる。そのあたりの認識が不十分な経営者も多いと思いますが、そんな経営者を部下の方々が説得する際には、スポーツを入口にするのも1つの手かもしれません。
1965年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。ペンシルベニア大学ウォートンスクールでMBA取得。ハイパーネット副社長を経て、1997年にNTTドコモに入社。松永真理氏らと「iモード」ビジネスを立ち上げる。iモード以後も「おサイフケータイ」をはじめとするドコモの新規事業を企画、実現。2005年、同社執行役員就任。2008年同社退社。2008年5月に慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特別招聘教授に就任。株式会社ドワンゴの取締役のほか、複数の企業の社外取締役も務めている。
西 アナリティクスの進化には目覚ましいものがあります。かつては大量のデータをいかに扱うかという技術的な課題が大きなテーマでした。その後、技術課題はかなり克服され、2012年ごろからデータ・サイエンティストの必要性が叫ばれるようになりました。私自身はそろそろ次のステージに移行しつつあるのではないかと感じています。つまり、ディシジョン・マネージメントのためのアナリティクスです。データ・サイエンティストの考えたモデルをシステムに実装したうえで、意思決定者に対して素早く適切な判断材料を提供しようということ。実際、お客様からのそうしたご要望も増えています。
夏野 まったく同感です。ディシジョン・メーカーが自らデータを参照し、即座に判断を下しながらビジネスをコントロールする時代が始まろうとしています。そんな時代に企業が道を誤らないためには、2つのアプローチしかありません。経営者を含めた意思決定者がデータを扱えるようになるか、もしくは、データを使いこなせる人が意思決定者になるか。この記事の読者をはじめ、データに関心を持つ人たちが意思決定者にならなければ日本の企業の未来は暗いと思います。