ベンダーロックインのないクラウド基盤を構築できるのが魅力のOpenStack。様々なテクノロジーを選択できる半面、オープンソースならではのユーザー自己責任によるインテグレーションと信頼性の確保が課題となっている。そうした中、OpenStack FoundationのコーポレートスポンサーであるEMCは、自社製品群のOpenStackへの対応を拡大するとともに、OpenStack Foundation内での活動を強化することで、OpenStackの信頼性を向上すべく取り組んでいる。
Amazon Web Services(AWS)並みのクラウドを自前で構築・運用したい――。このような考えから、世界中の企業がオープンソースソフトウエア(OSS)のクラウド構築ソフトウエア「OpenStack」に期待を寄せている。OpenStack Communityが2014年5月に発表した調査結果によれば、OpenStackに期待する理由で最も多いのは「ベンダーロックインの排除」である。そして「コスト削減」「運用効率化」「テクノロジー選択の柔軟性」といった理由が続いている。
しかし、同調査の結果には「まだ大規模での導入実績が少ない」現状も示されている。ユーザーの47%は従業員数100名以下の企業。コンピュートノード数も50以下が61%を占め、1000ノード以上での導入は、わずか6%である。その点に関して、EMCジャパンの若松信康氏は、まだ小規模での利用にとどまっている背景には三つの要因があるとみている。
まず、OpenStackが、クラウドアプリケーション向けに拡張性・俊敏性・選択の柔軟性を重視するアプローチを取ったこと。「クラウドアプリケーションのインスタンス数は2017年まで年率300%で増加すると予想されていますが、それでも2017年時点のインスタンス数は、従来型アプリケーションの4分の1程度にしか満たないと見込まれています。アプリケーションの大部分を従来型業務アプリケーションが占める中で、OpenStackで期待する効果を上げるためには、どう従来の業務アプリケーションの運用に対応していくかが重要です。例えば、社内の一つの業務プロセスは、複数の業務アプリケーション間の互換性に基づく密結合の連携によって構成されています。そのビジネスにおける信頼性や安全性は、アプリ単位ではなく、一つの業務プロセスを構成するアプリケーション群の単位で、管理・制御しなければ維持できません。個々のアプリ開発・展開のスピード重視で全て疎結合化されたクラウドアプリのアプローチとは、信頼性や安全性を確保するための考え方が違ってきますが、そのギャップをどう埋めるかの答えが、ユーザーからは不透明です」と若松氏は指摘する。
二つ目は、そのアーキテクチャにある。従来のサーバー、ネットワーク、ストレージの上に垂直統合型で積み上げていくスタックではなく、標準化されたREST APIで必要な構成要素だけ疎結合して使う水平型スタックのアーキテクチャゆえに柔軟な選択が可能と思いきや、必ずしもそうではない。例えば、連携できるストレージがOpenStackのCinder(ブロックストレージ)向けのドライバを提供しているといっても、Havana向けなのか、Icehouse向けなのかで使えるバージョンが限定される。また、そのバージョンでサポートされていても、そこで使える機能は、ストレージによって変わってくる。つまり、ある要件のために使えるストレージというのはおのずと限定されてしまう。さらに、OSSがベースのため、使用は自己責任となってしまう。商用ディストリビューションがその全てを解決してくれるわけでもないことから、一足飛びに導入を推し進めることができない。
さらに三つ目は、開発思想が違うことから、従来のクラウドOSとは機能の実装が異なる点だ。代表的な例に高可用性(HA)がある。従来HAはシステム側に実装されていることで、効率的に安全に高可用性を確保できるようになっているが、OpenStackでは、選択と拡張性重視の設計思想の下、アプリケーション側にHAの機能を実装することが前提となっている。また、NovaやSwiftといったプロジェクトごとに開発を行っているため、それぞれの機能の成熟度や品質がコンポーネントによってまちまちという側面もある。最新のバージョンであるJunoでは、300以上の新機能が追加され、3000ものバグが修正されたが、年に2回リリースされるメジャーバージョンアップも初期リリースはバグが多過ぎて使えないというのが通例だ。若松氏は、「このようなOpenStackをエンタープライズで使えるようにしていくには、エンタープライズのニーズに適合するエコシステムを確立し、それもユーザーが一つの選択肢として利用できるようにしていかなければなりません」と語る。その実現のため、EMCは(1)OpenStackコミュニティー内で信頼性を向上させる活動、(2)EMC製品のOpenStack対応強化を通したユーザー選択肢の拡大、(3)Software-Defined StorageとOpenStackの連携によるさらなる革新、という三つの取り組みを進めている。