日新製鋼株式会社は、日新製鋼グループで利用するPC約4700台を2015年3月までにすべてシンクライアント化する。そこでは、基幹業務システムを仮想化し、サーバー上で稼働させて利用する「共有サービス方式」というチャレンジャブルな形態が採用された。この取り組みの背景には何があったのだろうか。来年3月の全面移行に向けてシンクライアント環境の構築を進める同社にその狙いについてうかがった。

守りを固めるだけでなく、攻めにつながる基盤の強化を

岡田 洋氏
日新製鋼株式会社
PI推進部長
岡田 洋氏

 「東日本大震災の際に真っ先に必要だったのが、社員および家族の安否確認、次にお取引先の被災状況など、情報の収集と連絡でした。つまり、OAシステムが真っ先に復旧、利用できることが最重要だと認識しました」と日新製鋼 PI推進部長の岡田洋氏は指摘する。同社では従来から基幹業務システムを二重化し、災害対策を講じてきた。しかし、復旧のプロセスとしては生産システムや販売システム、財務システムなど基幹系システムが優先される体制をとっていたという。

 さらに深刻な問題として明らかになったことは、システムを利用する環境がオフィス内にしかなかった点がある。モバイルPCを貸与している社員は営業部門など一部に過ぎず、また必ず携帯しているとも限らない。「ビルの倒壊や停電という事態になれば、最終的に頼れるのは個人が携行しているスマートフォンやタブレットなど。これらのモバイルデバイスが社内のOAシステムにつながらなければ現場と連絡をとることもできず、指示も送れません」と岡田氏。全社のBCP(事業継続計画)を考えると、緊急時にどこからでも利用できるIT環境の重要性が認識されることとなった。

 単純にリモートからのアクセスということであれば全社員へのモバイルPC配布もひとつの選択肢。しかしながら、同社が次世代のIT環境として選択したのが「シンクライアント」だった。クライアント側にアプリケーションやデータを持たないシンクライアントで構築すれば、どのような状況であったとしても外部からサーバーにアクセスすることで、すぐにサーバー上のアプリケーションを利用できる。また、セキュリティーを維持しながら、モバイルデバイスなどからも容易に接続、利用できる。多くの企業がシンクライアントに注目する理由もそこにある。

 しかし、同社では導入しやすい仮想PC方式によるシンクライアントではなく、あえて業務システム全体を視野にいれたアプリケーション仮想化である「共有サービス方式」という形態を選択した。そこにはサーバー集約型のコンピューティングスタイルでセキュリティーを強化するだけでなく、IT、特にクライアント・アプリケーションの構造改革を実現し、運用コストを抑えながらビジネスの変化に柔軟に対応できる俊敏性を備えていこうという目論見があった。

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