NTTドコモは現在、データ分析を社内の様々な領域に拡大していっている。前回紹介した「dグルメ」に続き、今回はネットでピザなどの出前を頼める「dデリバリー」におけるデータ分析から見ていこう。dグルメとはまた違った分析手法を用いている。

 dデリバリーは利用が順調に伸びており、夢の街創造委員会が運営する最大手の「出前館」に次ぐサイトとして、ネットの出前サービスで存在感を増している。そこでさらに新規顧客を増やそうと、データ分析を用いた新たな試みにチャレンジした。

 これまで一度も出前の利用がない新規顧客を獲得する最も代表的な販促施策は、ポイント付与などのキャンペーンだ。新規顧客になりそうな層を抽出し、メールなどで告知。まずキャンペーンサイトでエントリーしてもらう。そして実際のサービス利用(dデリバリーでは出前の注文)につなげる。

予兆モデルで抽出した顧客は出前が3倍

 ここで最も大事なのは、販促のお知らせをするターゲット顧客をどう選ぶかだ。ここにdデリバリーは、ドコモが長年研究してきた回帰分析に基づく予兆モデルを初めて適用した。ドコモは独自の予兆モデルをスマホの解約率の算出に使うなど、かなり前から実績を上げている。

 2017年5月に行った実験では、ターゲット顧客の集団を3種類用意した。1つめは比較検証のために「無作為に抜き出した顧客」、2つめは「ドコモの電話サービスの利用者のなかから、予兆モデルで抽出した出前の注文をしそうな顧客」、そして3つめは「dデリバリーの主管部署が本人の家族構成や趣味など、顧客アンケートを基に選んだ想定顧客」である。A/Bテストならぬ、A/B/Cテストだ。

「dデリバリー」は無作為に抜き出した顧客(図のA)と予兆モデルで抽出した顧客(図のB)、主管部署がアンケート情報などを基に選んだ想定顧客(図のC)の3つの新規顧客集団に対して、同じ告知媒体で販促キャンペーンを実施した。出前の注文件数は最大で3倍の差が出た
「dデリバリー」は無作為に抜き出した顧客(図のA)と予兆モデルで抽出した顧客(図のB)、主管部署がアンケート情報などを基に選んだ想定顧客(図のC)の3つの新規顧客集団に対して、同じ告知媒体で販促キャンペーンを実施した。出前の注文件数は最大で3倍の差が出た
(出所:NTTドコモ、一部をITproで修正)
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 結論から言えば、3つの新規顧客ターゲットに対し、同じ告知媒体で販促キャンペーンを実施したところ、出前の注文件数は無作為に選んだ顧客層に対して、予兆モデルは3倍、主管部署の想定顧客は2倍となった。

 dデリバリーを担当するコンシューマビジネス推進部コマースサービスの橋田直樹第二コマース担当課長は「予兆モデルで抽出した顧客が最も注文が多いという明確な差が出た。我々(人)が選んだ顧客ターゲットよりも注文件数が伸びることまで確認できたので、dデリバリー以外のコマースサービスにも予兆モデルを広げていけると考えている」と話す。人の勘と経験の世界から、一歩踏み出せたわけだ。ネットサービスは結果に有意な差が出れば、すぐに修正できるので成果を刈り取りやすい。

dデリバリーを担当するコンシューマビジネス推進部コマースサービスの橋田直樹第二コマース担当課長
dデリバリーを担当するコンシューマビジネス推進部コマースサービスの橋田直樹第二コマース担当課長
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 この予兆モデルは「過去にdデリバリーを使ったことがある人」を“正解”とする。その人たちの傾向を分析し、何千個もあり得るパラメーターのなかから、今回はおおまかに400項目ほどを選び、スコアが高い人を新規顧客として抽出した。このパラメーター選びにドコモのノウハウがある。それがネットコマース分野のターゲット顧客の絞り込みに効果を発揮することを実証できた。

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