米アップルのタブレット「iPad」とスマートフォン「iPhone」を全社に導入。さらに、会社にとって最も重要な情報(「コア情報」と呼ぶ)である住宅1軒1軒の内容を一元管理できるデータベースの整備を2本の柱にして、働き方改革にまい進する企業がある。住宅大手の積水ハウスだ。

 同社は上記の取り組みが評価され、2015年と2016年に2年連続で、経済産業省および東京証券取引所が決定する「攻めのIT経営銘柄」に選ばれた。2017年は3年連続の受賞こそ逃したものの、引き続き「IT経営注目企業」に選出されている。総務省が公開した平成29年版『情報通信白書』でも積水ハウスは、大阪ガスと新日鉄住金ソリューションズと共に「企業におけるデータ分析の先進事例」として紹介されている。

 積水ハウスがこれほどIT活用で注目されるのは、2009年から進めてきた全社規模の業務改革が、結果的に昨今の働き方改革に直結したからだ。

 具体的には、会社には必ず存在する部門や組織間の壁を越えた住宅情報の一元管理を、5年以上かけて実現した。その住宅情報は、全社員に配布したiPadまたはiPhoneでどこからでも見られるようにしている。これが全社員の業務効率を大きく引き上げた。

 すると当初の想定を2倍以上も上回る、年間80億円規模のコスト削減を達成。しかもその効果を継続させている。

典型的な部門最適のバケツリレーを否定

 これまで積水ハウスは、顧客が家を建てるまでの工程順に従って、営業(商談)から開発、設計、生産、施工、引き渡し、点検などを受け持つ各担当部門が、個別にシステムを開発・運用して業務をこなしてきた。こうした部分最適な「バケツリレー方式」の業務フローは長年、住宅を大量生産するには最も合理的なものづくりのプロセスであると見なされてきた。

 だがここに来て、ほころびが目立ち始めた。縦割りの組織には付きものである「部門間のムダ」が顕在化してきたのだ。例えば、後工程の部門のシステムに情報を引き渡す際、再入力などのムダや二重・三重の情報管理があちこちで発生していた。部門ごとにある業務システムに、住宅の設計図や顧客情報がバラバラに格納されているのは、あまりにも非効率だ。

 住宅メーカーにとって、商談中や建築中の住宅、完成して顧客に引き渡した住宅、リフォームした住宅などの情報は、何よりも大切だ。最大の財産といえる。だから積水ハウスのコア情報なわけだ。設計図や住宅の構造、使用した部材、外観などの写真、これまでに起きた不具合や修理状況、建築年数、住んでいる顧客といった住宅ごとの情報を一元管理できていないと、必要なときに必要な最新情報を参照できない可能性が出てくる。

 こうした問題を一気に解消するため、積水ハウスは2009年、抜本的な業務改革に乗り出した。全工程で一気通貫に住宅情報を管理することを目指した「邸情報プロジェクト」を立ち上げたのだ。プロジェクトが完了した2014年までの投資は総額89億円。大規模な案件だが、結果的に2015年に80億円以上のコストダウンに成功。効果は持続しており、「すぐに元が取れた」(IT業務部の上田和巳部長)。それほどコア情報を全社で一元管理する効果は大きかった。

IT業務部の上田和巳部長
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 邸情報プロジェクトの終盤に当たる2013年には同時並行で、これまでのパソコンを使った仕事の在り方を全面的に見直すワークスタイル変革プロジェクトにも着手した。全社員にiPadまたはiPhoneを合計で約3万5000台配布し、タブレットやスマホから、いつでもどこでも仕事ができるようにすると決めた。このiPad大量導入プロジェクトは、上田部長自身がプロジェクトリーダーを務めている。

iPadから一元管理された顧客の住宅情報1軒1軒にアクセスできる
(出所:積水ハウス)
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