2017年9月末にも100%クラウド化を実現する東急ハンズ。移行過程では、オンプレミスで実現できていた機能がクラウドでは使えなくなる問題が発生。その都度、代替手段を考えて対処した。一方、移行するメリットを最大限に享受するため、クラウドならではのアーキテクチャー設計にこだわった。

 東急ハンズが全てのシステムをクラウドへ移すと決断したのは2012年のこと。“聖域”を設けず、社内の主要システムの移行をほぼ同時に開始した。

 移行先は米アマゾン・ウェブ・サービスのAmazon Web Services(AWS)。ただし、いざオンプレミスのサーバー群をAWSに移行し始めると、既存システムで実現していた機能を実装できないケースが出てきた。そのときは「同じ目的を別の手段で実現できないか」と考えることで事態を打開した。

 象徴的なのは、2013年5月に移行したPOSシステムの事例だ。クラウドに移したサーバーからネットワーク経由でPOSレジ(端末)を起動するWake On LAN(WOL)機能が使えなくなることが判明した。遠隔でPOSレジの電源を投入するには、サーバーから起動用のパケットを端末に送る必要があるが、AWSの仮想プライベートクラウド「Amazon Virtual Private Cloud(VPC)」では、パケットを多数の端末に送信する「マルチキャスト」が禁止されていたのである。

 これでは現行機能を実現できないので「POSシステムは移行を諦める」と判断するケースもある。移行の手間が少ないシステムだけをクラウド化し、そうでないシステムはオンプレミスに残すという考えだ。

 しかし、東急ハンズは違った。プロジェクトを指揮した長谷川秀樹執行役員オムニチャネル推進部長が示した方針は「全てのシステムを移行する」「移行が困難だと判断すればプロジェクトを中断し、全部オンプレミスに戻す」というものだ。クラウドとオンプレミスのシステムを混在させることは考えていなかった。異なる二つの環境を維持するほうがコスト高になると判断したためだ。

 WOL機能が実現できないという報告を受けた長谷川氏は「できないことは分かった。しかし、POSレジを遠隔で起動できないことが、全システムの移行を中止する理由になるか?」とプロジェクトメンバーに問いかけた。

写真●東急ハンズの長谷川秀樹執行役員オムニチャネル推進部長
写真●東急ハンズの長谷川秀樹執行役員オムニチャネル推進部長
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 プロジェクトメンバーは、目的に立ち返ることで問題解決の糸口を探した。WOL機能を使う目的は、店舗の開店に合わせて自動でPOSレジを立ち上げるため。自動で起動させるならば、WOL以外でも方法はある。東急ハンズが選んだのはタイマー設定だった。POSレジを改修し、開店時刻に自動で立ち上がるようにした。サーバー側からの操作は諦めたが、POSレジを自動で起動する目的は果たした。

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