三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がAmazon Web Services(AWS)の大規模導入を発表したことに象徴されるように、パブリッククラウド(以降、クラウド)を導入する動きが、IT投資に積極的な一部の大手企業において目立ってきている。

 ただし一般には、クラウドが完全に市民権を得たという状況には至っていない。まだまだクラウドの信頼性やセキュリティ、性能などについて懐疑的に見る目が残る。ガートナー ジャパンが2017年1月に実施した調査結果では、IaaS(Infrastructure as a Service)における日本企業のクラウド採用率は、2016年と同じ16.1%と導入のペースは遅い。SaaS(Software as a Service)は2016年の27.6%から2017年は31.7%まで伸びたが、それでも3割強にとどまる。

日本企業のクラウド採用率
(出所:ガートナー ジャパン、2017年1月調査)
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 同調査では今後1~2年におけるパブリック(外部)クラウドとオンプレミス(自社所有)環境への投資意欲についても尋ねている。結果はクラウドに対する投資意欲はオンプレミスの2倍以上だった。

 投資意欲が高まっている割にクラウドの採用が進まない理由として、「既存の業務システムの置き換えが大半であるIaaSの場合、『止まってはならない』『データの漏洩は絶対に許されない』という運用上およびセキュリティ上の厳しいユーザー要件が設定されているケースが多く、クラウドの利用をためらう傾向は今でも続いている」(ガートナー ジャパン)と分析している。

 本特集ではクラウド導入の障壁となるいくつかの要因について、いかに社内を説得し、導入を推進するための方法を先行ユーザーの事例を基に解説する。第一回ではいまだ根深い、セキュリティに対する懸念への対応法を探る。

今も昔も金融業界の事例は強力

 「AWSの本番運用に当たっては、セキュリティ上の懸念について経営陣への説得に時間を掛けた」。こう語るのは、協和発酵キリンの情報システム部長だったときにAWS導入を主導した篠田敏幸氏(2017年3月に協和発酵キリンを退社)だ。

 同社は2013年初頭にインフラとして、AWSの本格利用を開始した。 欧州SAPのERP(Enterprise Resources Planning)システムや、生産管理、営業支援、販売物流といった基幹系システムを順次AWSに移行していった。2017年1月時点で46システム、94台のサーバーがAWS上で本番稼働している。

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