「クラウド時代のネットワーク最適化Forum 2017」の事例講演に本田技研工業でWebマスターを務める石橋直正氏が登壇。昨年から今年にかけて、Webサイトの基盤をオンプレミスからパブリッククラウドに移行した際の経緯を明かした。

本田技研工業 広報部 Web・社内広報課 石橋 直正 氏
本田技研工業 広報部 Web・社内広報課 石橋 直正 氏
撮影:平瀬 拓
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 自動車や二輪車、農機の製造・販売にモータースポーツの運営、近年はロボットやジェット機の製造・販売も手掛ける本田技研のWebサイトには、多種多様なコンテンツがある。石橋氏によれば「約700種のコンテンツがあり、ページ数は数十万に及ぶ」。ページ数はさらに増加傾向にあり、ストレージなどのシステムリソースが逼迫していたことから、パブリッククラウドへの移行を決断した。

移行で掲げた4つの要件とは

 移行に際して同社が掲げた要件は4つある。1つめは「柔軟なインフラが欲しい」。コンテンツの増加や訪問者の急増などに対して、柔軟にシステム基盤を拡大・縮退できる環境が必要だった。

 同社が最終的に選択したのは、AWS(Amazon Web Services)。IaaSである「Amazon EC2」の上でシステムを稼働させる形態だ。これならば、必要な時に必要なだけシステムリソースを利用できる。

 2つめの要件は「固定費を抑えたい」。クラウドサービスは従量課金制なので、ハードウエアやソフトウエアを資産として保有するオンプレミスに比べて、固定費を大きく削減できる。だが、石橋氏は次のように警鐘を鳴らす。「AWSはサービス単体で見ると確かに安価だが、オンプレミスで稼働していたソフトウエアをそのまま移行すると、TCO(総所有コスト)が悪化するケースもある」

 そこで同社が採ったのは、ミドルウエアをそのまま移行するのではなく、できるだけAWSのクラウドサービスに代替するアプローチである。データベース管理システムは「Amazon RDS」を利用しているほか、オンラインストレージサービスの「Amazon S3」や、ネットワーク/クラウド監視サービスの「Amazon CloudWatch」なども利用している。

 3つめの要件は「セキュリティをもっと強化したい」。同社では、クラウド上のシステムにWAF(Web Application Firewall)やアンチウイルス、IDS/IPS(不正侵入検知・防御システム)を組み込んで、これらのログを統合的に管理する「セキュリティ運用センター」を設置している。

 最後の要件が「スマートフォンへの対応を進めたい」。同社のWebサイトでは、PCからの訪問者とスマホからの訪問者の数が2016年12月に逆転。スマホの割合がどんどん高まっている。そこでスマホへの対応として2種類の手法を活用している。

 1つは、デバイスを判別して、PCとスマホで異なるコンテンツを表示する手法だ。どちらのデバイスからアクセスしても、ユーザーには同じURLに見えるようにしている。もう1つが、同じコンテンツでもデバイスによってサイズや画像の解像度などを変える「レスポンシブデザイン」という手法である。

 最新のテクノロジーを活用することでWebサイトの利便性は大きく変わる。石橋氏は「コミュニケーションとテクノロジーは表裏一体だ」と述べて、講演を終えた。