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 「定額の聴き放題サービスやハイレゾリューション(ハイレゾ)配信など、音楽配信サービスの需要は急速に変化している。もはや既存のオンプレミス環境では対応できない」―。

 音楽配信の国内大手、レコチョクの松嶋陽太・事業システム推進部長はこう話す。同社が取り組んでいるのが、オンプレミスの音楽配信システム全般をパブリッククラウドへ移設するプロジェクトだ。具体的には、消費者が触れるWeb画面や音源管理、課金管理、配信基盤などのシステムを、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のサービスを使って構築・運営することにした(図1)。

図1 クラウド移行プロジェクトの概要
音楽配信関連の全システムをAWSに移行するレコチョク
図1 クラウド移行プロジェクトの概要
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 2014年から作業を開始しており、2017年3月までに全システムの移行を完了させる予定。レコチョクがAWS移行の検討に着手したのは2013年前後のことだ。

 既に国内企業によるAWSの採用は広がっていたが、中核事業のシステムをAWSに全面移行させたケースはほとんどなかった。加えて「AWSに関する社内エンジニアの知識やノウハウ、学習意欲にもばらつきがあった」(松嶋部長)。

 そこで同社はプロジェクトの遂行に当たり、二つの施策を講じることにした。

 一つは社内共通のAWS利用ガイドラインを独自に作成し、各システムへの適用を徹底すること。システムの設計段階とリリース段階の二段階で費用対効果などをチェックするサイクルを整備して、慎重に作業を進めた。

 たとえ最先端のIT基盤を導入しても、自由に活用できる力が社内になければ効果は半減してしまう。そこで今回のプロジェクトを契機に、社内のエンジニア全員にAWSのノウハウを学んでもらい、内製体制を整えた。これが二つめの施策だ。

音楽配信のデータ量が急増

 ソニー・ミュージックエンタテインメントなど主要レコード会社が共同出資しているレコチョク(旧レーベルモバイル)は2001年7月の設立。2002年に従来型携帯電話(ガラケー)向け音楽配信サービス「着うた」を開始した。

 以来、大手携帯電話会社との協業による配信チャネルの多様化や、スマホやパソコン、携帯ゲーム機などへの対応を通じて事業を拡大している。国内レコード各社が制作した楽曲の大半をそろえるのが強みだ。

 ただ近年の事業拡大に伴い、音楽配信システムには大きな負荷がかかるようになっていた。同社が管理している音源データは2013年ごろには、着うた開始当初と比べ約70倍となる700テラバイトに及んだ。音楽配信に必要な回線の帯域も同様に70倍の毎秒2ギガビットに達した。仮想サーバー約1000台を運営しており、管理の手間は物理サーバー50台で済んでいたガラケー時代とは雲泥の差だ。

 消費者が音楽を楽しむスタイルにも変化が訪れた。スウェーデン生まれのスポティファイを筆頭に海外では定額制の音楽聴き放題サービスが台頭。レコチョクも2013年には定額聴き放題のサービスに乗り出しており、多様なニーズに応えるため、得意の邦楽だけではなく海外のインディーズまで幅広い楽曲ラインアップをそろえる必要性が高まった。

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