変化に強いシステムを実現するため、アジャイル開発が注目されている。これまでも浮き沈みを繰り返してきたアジャイル開発だが、今度こそ普及の兆しが見えてきた。一部のプラクティスを活用するのがポイントだ。システム開発の新常識を事例から明らかにする。
アジャイル開発でよく利用されるタスクボードやKPT(Keep Problem Try)ボードなどのツールはプロジェクトの進捗を見える化したり、仕事の進め方を確認したりするのに欠かせない。見える化は、属人化の解消にもつながり、結果としてプロジェクトの遅延リスクを回避できる。これらのツールはウォーターフォールの開発現場でも役立つ。
タスクボードやKPTボードなどは、ホワイトボードと付箋のみで作成できるのも特徴だ。どんな開発現場でも手軽に導入して、効果を期待できる。経路検索サービス「駅すぱあと」を提供するヴァル研究所の事例で、使い方のヒントを学ぼう。
ヴァル研究所の社内は、ホワイトボードや壁を使った200枚以上の“カンバン”で埋め尽くされている。同社のいうカンバンとは、タスクボードやプロダクトバックログ、KPTボード、バリューストリームマッピングなどを含む。
同社には、ウォーターフォールで開発するチームとアジャイルで開発するチームの両方があるが、付箋とホワイトボードを使った業務の見える化が徹底されている点に変わりはない。
特に目を引くのが壁一面に設置された大きなカンバンだ。ここには半年間のリリーススケジュールが記されている。処理すべきタスクは内容ごとに違う色の付箋で貼り付けられており、一目でプロジェクト全体の進捗状況が分かるようになっている。
ユニークなのは、タスクボード前のテーブルに設置されたスイッチだ。このスイッチは、トラブルや緊急案件が発生した際に利用する。スイッチを押すと、大きな音がフロア内に響きわたり、各チームのリーダーが集合する約束になっている。
各リーダーはボードの前に設置されたテーブルで緊急のスタンドアップミーティングを開き、タスクの優先順位をただちに入れ替える。問題にいち早く対処できる体制を敷き、プロジェクトの遅れを防ぐわけだ。
アジャイル開発を本格的に始めるために導入した各種ボードや振り返りの活動は、自分たちで業務を改善するというマインドにもつながった。常に会社を変えていこうというマインドは「現在の会社の強みになっている」(ヴァル研究所の新井剛 開発長)という。