クラウドERPの選択ポイントを理解するために、まずは国内ERP市場の状況を押さえておこう。

 ITRでは国内ERP市場を毎年調査しており、2017年3月7日に最新の「ITR Market View:ERP市場2017」を発刊している。ERP市場2017では、48ベンダー/90製品・サービスを調査対象とし、うちSaaSとして提供されているのは28ベンダー/39サービスである。国内ERP市場は、新規ライセンスやサブスクリプションベースで(保守料、初期費用、ハードウエア費用などを含まず)、2015年度から2016年度にかけて6.5%の堅調な伸びが予想されているが、SaaSに限定した同年度の実績は23.2%と高い成長が見込まれている。

 SaaSを主要4業務分野別の売り上げで見ると、最も利用が進んでいるのが人事・給与で全体の53.1%、次いで会計の23.9%であるが、伸び率では会計、販売、生産管理が人事・給与より高くなってきている(いずれも2016年度の予測値)。そのようなことから、今回は、会計への対応を必須としつつ、販売、生産、人事・給与、その他拡張的な機能への最新の対応状況を調査している。

 これらの選択において、最初に確認しておくべきは、クラウドのアーキテクチャーである。今回はマルチテナント、シングルテナントで大別して問うているが、明確な回答がない3サービスを除けば、シングルテナント5サービス、マルチテナント8サービス、両形態が可能な2サービスとなっている(前回の記事の表4を参照)。

 料金がサブスクリプションベースでも、いわゆるホスティングベースのシングルテナントから、IaaSやデータベースのテクノロジーで企業専用の独立したテナントを提供する専用クラウドサービスといった違いが見られる。シングルテナントのサービスは、オンプレミスのパッケージとして動作させることも可能なものもあり、自社システムとの連携性などを重視する企業にはむしろ適する場合もある。

 一方、SaaSの代名詞といってよいマルチテナントは、導入企業が増えるにつれ、システム運用面や価格面でのスケールメリットが出しやすい。その半面、企業専用のクラウドサービスやオンプレミスでの動作が前提となる場合は適さない。

 ERPの場合、技術的にシングルテナントが劣り、マルチテナントが優れるといった画一的な評価は適さない場合も多く、専用クラウドサービスを重視する業種もある。そのため、価格や他のサービス内容と合わせて評価することを推奨する。

 なお、運用管理機能やセキュリティ機能については、自社のシステム標準や要求水準に基づいて評価すべきであるが、海外サービスについては国内データセンターが指定できることを重視する場合もあるだろう。

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