「シンギュラリティはもう来てしまっている」ーー。

 脳科学者の茂木健一郎氏は2017年6月2日、アマゾン ウェブ サービス ジャパン主催の年次イベント「AWS Summit Tokyo 2017」で講演した。2045年ごろに人工知能(AI)が人間の知能を超えるとされる「シンギュラリティ(技術的特異点)」に関して、既にAIが部分的に人間の能力を上回っているという見解を示した。

「AWS Summit Tokyo 2017」で講演する脳科学者の茂木健一郎氏
「AWS Summit Tokyo 2017」で講演する脳科学者の茂木健一郎氏
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 茂木氏は人間の認知能力には限界があることを例示した。「人間の意識(処理量)はデータ量で言えばせいぜい毎秒128ビット程度しかない。私は今、この場で話すことに意識の全てを使っている。聞いている皆さんも、その間は公私のいろいろな問題に意識が及ばなくなる」(茂木氏)。

 

 一方で、AIは機械学習を進めたり、共有したりできると述べた。「自動運転技術のすごいところは自動車1000台単位で学習したデータを共有できること。それぞれ10万~20万キロ程度の走行経験しかない人間の経験を容易に上回る。私が『雪道を走るための学習データが欲しい』と思ってもできないが、AIならできる」(同)。

 茂木氏は「人間の脳の限られたキャパシティなんて気にしないほうがシステム開発の可能性が広がる」と強調。「(米アマゾン・ドット・コムのスマートスピーカーである)『Amazon Echo』には数千のスキルが実装されているというが、『タクシーを呼ぶ』『食べ物を注文する』といったものが多い。確かに便利だが、人間の限界を超えるものではない」と話した。人間の脳では処理し切れないような長時間・大量の音声データをプライバシーに配慮したうえで解析するなど、新たな展開に期待を示した。