ここ数年、無線LAN機器の出荷台数は全世界で年間数十億ユニットに及び、パソコンやスマートフォン、タブレットをはじめゲーム機、家電、自動車など様々な機器に搭載されるようになった。そして無線LANのネットワークは、家庭やオフィスはもちろん駅や空港、ショッピングモール、レストラン、コンビニエンスストアなど様々な場所で利用可能になっており、日常生活に欠かせない重要なインターネット接続手段となっている。

 その無線LANは、数年おきに新しい規格が登場し、性能向上や機能強化が図られている。最近の無線LAN機器の多くは、2013年に標準化が完了したIEEE 802.11acという規格に準拠しており、1Gビット/秒以上の非常に高い伝送速度をサポートする機器も増えてきている。

IEEE 802.11acに対応する機器の例。802.11acで最大1733Mビット/秒(理論値)の通信が可能なバッファローの無線LANルーター「WXR-2533DHP2」
IEEE 802.11acに対応する機器の例。802.11acで最大1733Mビット/秒(理論値)の通信が可能なバッファローの無線LANルーター「WXR-2533DHP2」
(出所:バッファロー)
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 一方で、次世代の無線LAN規格の策定も進んでいる。無線LANの標準規格を策定しているのは、IEEE(米国電気電子技術者協会)という組織である。その「802 LMSC(LAN/MAN Standards Committee)」に設けられた「802.11作業班(IEEE 802.11 WG)」では、IEEE 802.11acの後継規格となる次世代無線LANの標準化作業を進めている。その1つが、本特集で解説するIEEE 802.11ax(読みはアイトリプルイー はちまるにてんいちいちエイエックス。11axと略したときはイレブンエイエックスと読む)である。

これまでは無線LANの高速化が議論の中心だった

 まず、802.11axは無線LANのどこを改良あるいは拡張する規格なのかを整理しておく。

 無線LANは多くの機器に搭載され、様々な用途・場所で使われるようになったが、新たな問題も発生してきている。例えば、「大きな駅の構内などの混雑した場所で、無線LANのネットワークは見えているのになかなか接続できない」あるいは「接続できたが通信が非常に遅い」といった経験をしたことはないだろうか。これらは無線LANの混雑が原因であることが多く、こうしたUX(User Experience)の低下は無線LANにとって克服すべき重要な課題である。

 IEEE 802.11axの標準化作業が始まる前に、IEEE 802.11 WGの中に「High Efficiency WLAN Study Group(HEW SG)」というサブグループが設置された。ここでは、次世代無線LANのユースケースや関連する要求条件などが議論された。様々なユースケースが提案・議論されたが、基本的にこれまでのユースケースを踏襲しつつ利用場所や使い方の拡張を提案するものが多かった。802.11axは当初から、802.11n/acといったメインストリームの後継規格として認識されていたと言える。

 従来、新しい無線LAN規格の標準化作業を開始する際に、議論の中心となったのは高速化だった。具体な議題の例としては、MIMO(Multiple Input Multiple Output)の採用や、1チャネル当たりの帯域幅の拡張などである。これらの議論の結果として、IEEE 802.11acでは最大6.93Gビット/秒の伝送速度が規定された。

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