ITproマーケティングのコンテンツに深くかかわり、デジタルマーケティングに長年携わってきた上島千鶴氏(Nexal)と熊村剛輔氏(アドビ システムズ)に、対談形式で日本のデジタルマーケティングに関わる「なかなか言いづらい本音」を聞く本企画。

 最終回は、マーケティング部門をプロフィットセンターに変えた企業の取り組みや、マーケティング実践のためのコンテンツ製作体制について議論を進めた。

(聞き手は松本 敏明=ITproマーケティング)

MAを使って大型案件を発掘、理想のシナリオとは

悪い話だけではなく、お手本になるような、良いデジタルマーケティングの事例について教えてください。

上島:デジタルを活用したマーケティングで成果を出している企業の特徴は、営業経験やお客さまと折衝体験を持つ人材がマーケティング組織にいることです。

 データを見ても前後の文脈から状況を読み解く人材がいないと、「なぜこの顧客は、こういう行動をしてるんだ?」と疑問を抱くこともありません。

上島 千鶴氏(Nexal 代表取締役)
上島 千鶴氏(Nexal 代表取締役)
大手情報サービス企業での新規事業立ち上げ、複数の外資ITベンダーでマーケティング&セールスを実践し2007年にコンサルティング会社Nexalを設立。ネットとリアルの接点を生かした「地に足のついた現実的なコンサルティング」をモットーに、デジタルマーケティングに関わる部門・レイヤー間を超えた課題解決型ファシリテーションを提供。大手企業や官公庁、グローバル企業を中心に多くの実績を持つ。代表的な著書に『マーケティングのKPI 「売れる仕組み」の新評価軸』(日経BP社)がある。 (撮影:都築雅人)
[画像のクリックで拡大表示]

 あるケースを紹介します。MA(マーケティングオートメーション)ツールを入れた企業の担当者が、全く想定していなかったターゲット外の企業から複数人が、自社Webサイトの特設ページをよく見て回遊していることに気づきました。そもそもターゲット外の企業なので普段ならスルーする所ですが、それを見た営業経験者が嗅覚を働かせて、「なにか水面下で大きな案件が動いてるはずだ」と疑問に思ったんです。

 その企業やグループのプレスリリースなど公開情報を読み漁ったところ、他社のM&A事業に関与していることが分かり、基幹を含めた全システムを刷新する可能性が見えてきました。そこでエリアの営業に探らせたところ、結果的に億単位の大型案件につながりました。

熊村:それはMAの理想のシナリオですね。

上島:上記のような例は大手でも年に1回あるかないかの話ですが、仮にデータしか眺めていないルーチンワーク人材だと、「特定のアカウントで動きがあったけれどターゲットリストに入っていないので、はい終了」になります。

 しかしそこに疑問を持って、行動履歴(結果)の要因を前後の情報から読み解く、つまり行動を起こす原因となった背景や文脈を探ってみるといった確認アクションと、一筋の仮説を立てる試みが必要です。こうした気付きは今の人工知能(機械学習)でもまだ対応できていません。営業嗅覚がある人じゃないと難しいでしょうね。

熊村:マーケティング経験のある営業担当者、営業経験のあるマーケティング担当者はどちらも、「強い」ですよ。

上島:そうですね。特に組織をまたがって現場を知ってる人。最初は組織を超えた人材交流、または協働プロジェクトという形でもいいですが、社内やグループ内で複数の職務を経験するキャリアルートは、ぜひ用意してほしいです。

MAに向く企業と向かない企業、向く業種と向かない業種

背景にはツールの使い方に目が向いてしまい、収益の上げ方に頭を回らなくなっている人が多いということでしょうか。

熊村:リードナーチャリングをする上で、いちばん大事な考え方を極論すると、言葉は悪いですが「あなたは、このお客様からどれだけの売り上げを立てたいのか」という質問に答えられるどうかなんです。きちんと答えられない人には、そもそも「MAは合わない」と思うんです。

上島:「売り上げを立てたい」と言っても、根性論しか出てこないのでは意味がありません。IT系の商材を扱う営業担当者なら、見込み客のIT投資の潜在的な規模は調べられます。

 そこから何%が自社と取り引きがあるかを考えれば、あと何億積み上げられるかポテンシャルは見えるはずです。「だったら関係を醸成していこう」となりますよね。

この先は日経クロステック Active会員の登録が必要です

日経クロステック Activeは、IT/製造/建設各分野にかかわる企業向け製品・サービスについて、選択や導入を支援する情報サイトです。製品・サービス情報、導入事例などのコンテンツを多数掲載しています。初めてご覧になる際には、会員登録(無料)をお願いいたします。