ITproマーケティングのコンテンツに深くかかわり、デジタルマーケティングに長年携わってきた上島千鶴氏(Nexal)と熊村剛輔氏(アドビ システムズ)に、対談形式で日本のデジタルマーケティングに関わる「なかなか言いづらい本音」を聞く本企画。

 その第2回は、日本企業で営業部門とマーケティング部門のコミュニケーションが成立しない理由から始め、マーケティング部門に関わる人材への危機感が話題となった。

(聞き手は松本 敏明=ITproマーケティング)

日本企業で営業部門とマーケ部門の会話が成立しないわけ

日本では営業とマーケティングの関係が悪いといわれています。このあたりをどう見ていますか。

熊村 剛輔氏(アドビシステムズ マーケットディベロップメントエンジニア)
熊村 剛輔氏(アドビシステムズ マーケットディベロップメントエンジニア)
1974年生まれ。プロミュージシャンからエンジニア、プロダクトマネージャー、オンライン媒体編集長などを経て、マイクロソフトに入社。企業サイト運営とソーシャルメディアマーケティング戦略をリードする。その後広報代理店のリードデジタルストラテジストおよびアパレルブランドにおいて日本・韓国のデジタルマーケティングを統括。2013年4月から現職。ITproマーケティングで「一歩先を行くデジタルマーケティング」を連載中。ITproでの連載から続けて5年以上、ほぼ毎週記事を執筆している。(撮影:都築雅人)
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熊村:営業とマーケティングの関係見直しの議論をする企業はこれから出てくると思います。ですが、見直しと言っても、現在の日本企業だと、そもそもマーケティングと営業がコミュニケーションを取っていないことの方が多いかもしれません。ある意味、ケンカをする以前の問題かもしれませんね。

 どちらかと言うと、日本のBtoB企業ではマーケティング部門がほとんど機能していないようなところが少なくありません。その場合、残念ながらマーケが営業にあまり相手にされていないということになります。

海外ではケンカになっているのでしょうか。

上島:海外だとマーケティング部門のミッションが明確になっていますから、数字の目標値もはっきりしています。

熊村:多くの場合、営業とマーケティングの両方がそろって初めてビジネスが機能するわけですが、その際、自分たちはきちんとやろうとしているのに、一方がうまくいっていないという理由で、「俺の足を引っ張るな」というような言い方になってしまうケースは、たまに見られますね。

上島:日本のマーケティング部門は基本的にコストセンターであって、プロフィットセンターになっていません。営業から見ると「あそこは数字を生み出す部門ではない」という意識が根本にあるのでケンカにもなりません。

 マーケ部門が数字責任を持って、例えば来期の目標に対して50%の「オポチュニティー(商談)」を作るという目標を設定すれば、やっとそこでケンカの土俵に乗れるでしょう。

熊村:その際に言葉をデータで定義することが非常に大事だと思っています。例えば、自分たちのビジネスにおいて「売り上げ」や「顧客」といった言葉を、測定可能な要素できちんと数値化して定義できるかということです。

 言葉をデータで定義すると、自分がその数値にどれだけ関与しているかを、注意深く見て追いかけるようになりますし、そこから議論も始まります。海外には見事なくらい「言葉をデータで定義するという文化」がありますが、こういったところに大きな違いがあると思います。

上島:大事なのは、営業など事業部が使っている言葉と、マーケティング部門が使っている言葉、さらにコンタクトセンターなどが使う言葉がみんな違っていることです。同じ用語を使っていても、定義や意味合いが異なるのです。

 このため、企業に招かれていろいろな部門を交えた会議をするときに、私は定義や意味が違う用語を合わせるところから始めます。最初に意識合わせしておかないと、そもそも論に陥ってしまいます。また、どの会社にも同じパターンが出現します。

熊村:あやふやになったとき、軸がぶれそうになったときに、立ち返る場所にできるということですね。一番大事なのが定義で、その定義をしっかりまとめておく必要があるでしょう。

「デジタルしかできない人をマーケ業務に関わらせた」のは失策

上島:ネット広告代理店やアクセス解析、Web制作など「デジタル」に関わる人は、「PV」とか「セッション」、「CVR」などの言葉を恒常的に使うので慣れています。ただ、どこかで頭を(顧客を意識した)「リード」に変換していかないと、営業プロセスに話がつながらないんですよね。結局、(デジタルの世界の)コンバージョンで終わってしまう。

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