ITproマーケティングのコンテンツに深くかかわり、デジタルマーケティングに長年携わってきた上島千鶴氏(Nexal)と熊村剛輔氏(アドビ システムズ)に、対談形式で日本のデジタルマーケティングに関わる「なかなか言いづらい本音」を聞いた。

 二人からは3年前から日本に広がりだしたマーケティングオートメーション(MA)に対する持論や、アカウントベースドマーケティング(ABM)の捉え方へについて率直な意見が飛び出した。

(聞き手は松本 敏明=ITproマーケティング)

コンシューマーを相手にするツールはMAではない?

マーケティングオートメーション(MAブーム)が日本に来て3年。いくつかの企業でMAの導入が始まっています。MAの導入=デジタルマーケティングではありませんが、MAへの誤解が少なからず存在すると考えます。MAは本来何のためのツールなのか、営業部門が使うSFA(営業支援システム)とどう連携するのか。それに対して、導入した企業が取り組んでいることに何か不足しているものがあるのではないか。こうしたMAにまつわる誤解や現状について感じていることをお話ください。

上島 千鶴氏(Nexal 代表取締役)
上島 千鶴氏(Nexal 代表取締役)
大手情報サービス企業での新規事業立ち上げ、複数の外資ITベンダーでマーケティング&セールスを実践し2007年にコンサルティング会社Nexalを設立。ネットとリアルの接点を生かした「地に足のついた現実的なコンサルティング」をモットーに、デジタルマーケティングに関わる部門・レイヤー間を超えた課題解決型ファシリテーションを提供。大手企業や官公庁、グローバル企業を中心に多くの実績を持つ。代表的な著書に『マーケティングのKPI 「売れる仕組み」の新評価軸』(日経BP社)がある。 (撮影:都築雅人)
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上島:マーケティングオートメーション(MA)の元をたどると、2009年頃に米フォレスターリサーチが「リードマネジメントオートメーション」の市場概観レポートを出したのが最初と記憶しています。これに対して、リードは「CRM(顧客関係管理)」の概念に含まれると主張し続けた米ガートナーは、2013年に「CRMリードマネジメント」のMagic Quadrant(マジッククアドラント、市場内で競合するベンダーの相対的な位置付けを示すリサーチ結果)を発表しています。

 海外のMAツールはどれも、メール配信や広告効果測定とかアクセス解析、CRMなどから派生して拡張してきたので、元は何ツール出身なのかといったテリトリーがありました。それが、出身地はどこであれツールベンダー各社が口々に、自分たちのツールは「マーケティングオートメーション」だと名乗り始めました。BtoBもBtoCも特に区別することなく、みんなそろってMAって言っていましたね。

 当時、BtoC分野にはキャンペーンの予算管理とかスケジュール管理、ROI(投資利益率)などを出すツールが既にありました。CCCM(クロスチャネルキャンペーンマネジメント)やMCCM(マルチチャネルキャンペーンマネジメント)という名称で呼ばれていたツール群です。これらのツールベンダーも「MAだ!」と言いだしてから違いが見えなくなってきました。

熊村:僕もCCCMという言い方をしていたツールをMAだと呼ぶことについて、若干の違和感を感じていました。ただ当時、MAという文脈に載せないと、あまり理解してもらえないという事情もあったようです。

上島:売る側がみんなMAというジャンルに集中して、市場がこの言葉で定着したので、「MAのBtoC用」とか「MAのBtoB用」とかいった分類が出てきました。選ぶ側から見ると、余計分かりづらくなった印象があります。

熊村:その区別については、僕の頭の中ではある程度イメージが出来ています。ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、それは「コンシューマー」を相手にするのか、「カスタマー」を相手にするかの違いなのかなと思っています。

 CCCMはカスタマーというよりは、どちらかと言うとコンシューマーを相手にするものだと思っています。MAはカスタマー、つまりアノニマス(名前が分からない相手)ではなく、明確にバイネームのお客様を認識して、「それに対してうまくやってくれ」となるという認識です。

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