「クラウドを導入するとユーザー企業の運用関連の作業は増える」。クラウドを利用してきた企業は、こう声をそろえる。「クラウドの導入で、システム部門がインフラの運用作業から解放される」という考えは、必ずしも正解ではないと分かった。

 ただし運用担当者の業務は、これまでと大きく変わる。「障害が発生して休日に呼び出される」「保守切れにともなって自動的にやってくる5年ごとのサーバー更改を気にしながら、アプリケーションの保守計画を立てる」など、これまでの運用担当者が味わってきた重荷は、クラウド化で解消される。「これらはクラウド導入の大きなメリットだ」と大和ハウス工業の櫻井直樹氏(情報システム部 情報技術管理グループ グループ長)は振り返る。

 一方、クラウドを導入したからこそ、新たに発生する運用作業がある。それは、クラウドの稼働状況を毎日確認して、余剰なリソースを削減するなどの対策を探り、コストの最適化を図る作業だ。ノエビアホールディングスの滝川奈緒美氏(情報システム部課長)は、「日々の作業は増えるが、クラウドの導入によって運用担当者が実施すべき本来の業務に取り掛かれるようになった」と話す。

図●クラウドを活用する企業が導入後に実施したこと
図●クラウドを活用する企業が導入後に実施したこと
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プラクラならではの作業も発生

 千趣会では、AWSの利用開始をきっかけに、インフラ担当者がAWSを勉強している。「AWSは責任分界点が明確。OSから上は自社で責任を持って運用すべきと考え、AWSをシステム部門内で運用できる体制を作った」と千趣会の池本修幸氏(経営企画本部 情報システム部 システム管理チーム)は話す。

 千趣会では、AWSが主催する講習会に参加するなどして、システム部門内にAWSの知識を蓄積していった。池本氏は「自社と付き合いのあるITベンダーにAWSに詳しいITエンジニアがいなかったことも、自社の運用に踏み切った理由だ」と言う。

 プライベートクラウドを利用するJTでも、オンプレミス時には発生しなかった作業が新たに発生した。プライベートクラウドとして社内の基盤を統一したことで「ユーザー部門からの要望に合わせてマニュアルを半年に1度改訂する」といった作業が増えた。ミドルウエアのバージョンアップなどシステム停止が伴う保守のために、部門間の利用時間を調整するといった手間も増えている。

 パブリッククラウドの導入を検討中の大和ハウス工業は、こうした運用負荷の増加を懸念している。「プライベートクラウドへの移行で運用担当業務を社外に出したのに、AWSを本格的に利用するとまた社内で抱えることになる」大和ハウス工業 執行役員 情報システム部長の加藤恭滋氏といった懸念を持つ。

 クラウド化の推進を決める際には、導入後の運用作業をイメージしなければならない。