今回は企業事例として、広報(PR)活動の起点を自社のオウンドメディア発信に置く新しい取り組みで成果を上げているシックス・アパートを取り上げます。
情報発信の環境が整った今、直接担当者自身が情報を発信する方がマスメディア依存のPRよりも効果があると考えて行動している同社は、「リーンPR」の事例といえるでしょう。前編ではその広報体制と計画について解説します。
独立から1年、広報担当者一人が5万サイトを支える
シックス・アパートは、2003年にコンテンツ管理システム(CMS)プラットフォーム「Movable Type」を提供する米Six Apart社が設立した日本法人でした。それが、2016年6月にEBO(エンプロイバイアウト)によって日本企業として独立しました。
同社は主要顧客に企業内のウェブマーケター(ウェブ制作会社、ウェブ担当者、オウンドメディア管理者)を据えた、BtoBビジネスを展開しています。さまざまなCMSが林立する中、ブログツールとしての製品開発期から数えると16年にわたってユーザー数が増えており、社員30人が国内に5万以上ある導入サイトと300社以上のパートナーを支えています。同社の広報はこの3年間は、壽(ことぶき)かおり広報マネージャー(2010年入社)が担当しています。
広報担当は組織的には代表取締役の配下にあり、壽氏は製品とユーザーを受け持つマーケティング担当者二人と連携しています。この4人がチームとなり、製品リリースや全社イベントなどの年間予定を念頭に2週間ごとに打ち合わせて、壽氏が向こう2四半期のPRプランを策定しています。広報単体での必要経費は出張費や会議費程度であり、決裁者である代表取締役に随時相談して確保しています。
シックス・アパートのPRの特徴は、マスメディアとの関係構築よりもオウンドメディアでの直接発信を重視して、ユーザー企業内の意志決定権者(すなわちウェブマーケター)を支援する製品・企業としての認知に力を入れている点です。情報発信プラットフォーム企業だからこそ、広報活動の目的を単なる自社CMS製品を告知することにとどめず、ウェブマーケターつまり「企業の名を背負って情報を発信する人」の行動変革を支援するという広い文脈で認知され、理解してもらうことに置いています。
広報担当としては、後述するオウンドメディアや勉強会を自ら運営するなど、直接情報発信すること、そしてウェブマーケターを応援、支援することを重視しています。このため、SNS上で良い文脈を形成し、外部メディアで掲載を獲得して、さらに広く波及する、という流れを意識してPR活動のPDCAを設計しています。活動内容ごとに目的とその成果(誰にどういう行動変革をもたらしたいか)を定め、後述するKPIを基にそれを満たしたかを評価し、KPT法に則って改善します。