ITproマーケティング読者の皆さんに言をまたないほど、ちまたにはいわゆる“PR”があふれかえっています。「PR(Public Relations)」という文字列は、現在の広報(PR)の職域を超えて広告(AD)にまで広く浸透し、“戦略PR”という言葉も目にするようになりました。しかし実際のところ、「PRとは」「PR戦略とは」といった見解は人によって異なり、著しい混乱(カオス)状態にあります。
本連載では、こうした混乱を整理し、BtoBを手がけるIT企業がリソースが限られる中でも、KPI(重要業績評価指標)を指標とするPR活動のサイクルを高速に回し成果を導くPRを「リーンPR」と名付け、その実践法を探ります。
なぜ「リーンPR」なのか
リーン(lean)とは、“無駄な脂肪がない健康な状態”を意味する英語です。1980年代にトヨタの生産方式が「lean manufacturing(リーン製造)」として研究され、これを活用した製品開発、起業、ブランディング、会計などの一連の方式がリーン手法として知られています。
リーン手法の基本は、構築や測定、学習のフィードバックループを繰り返すことにあります。これは計画・実行・測定・改善のPDCAサイクルと同じように、振り返りを成長につなげるループを意味します。
BtoB・IT企業が、混乱したPR環境、そして混乱したメディア環境の中で勝ち残るには、1年待って全体の振り返るのではいけません。一つひとつのPR活動を評価するためのKPIを設定し、測定から学ぶたびに改善する高速サイクルを備えた戦略が必要となります。
戦略がなく、勘や肌感覚だけで広報組織を運用する従来の手法とは、一線を画しましょう。KPIを指標とした改善サイクルを高速に回して、リソース配分を最適化しながら目的達成に向かうPR手法「リーンPR」を取り入れるべきなのです。
広報(PR)と広告(AD)の混同の罪
まずは「リーンPR」が必要となった背景のPR環境、メディア環境の混乱を見てみましょう。
日本でPRが、プロパガンダ(布教、大衆操作、宣伝)および広告と切り分けて確立されたのは、第二次世界大戦後の1947年が起点です。連合国軍総司令部(GHQ)が地方行政機関に対して民主主義浸透のためにPRの理念を指導するうえで、“広報”と訳したことに始まるといわれています(「改訂版 広報・PR概論」、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会編、同友館)。