Step3 能力が高まる仕事を任せる

 次に、能力向上を図るステップ3に移る。候補者に欠けている能力、あるいはさらに高めたい能力を、できるだけ詳細にリストアップ。それぞれどういう仕事で高められるのかを考え、その仕事をアサインする。

 例えば、交渉力を高めるには、社内の他部門や顧客との交渉を担当させる。説明力を伸ばすなら、社内の上司あるいは社外に対する説明資料の作成と報告をさせる。問題解決力を向上させるには、仕事で問題が発生した場合の分析と解決策の立案およびその実施を任せる―といった具合である。

 ここで気を付けたいのは、顧客のように社外を相手にする仕事を担当させるケースである。進め方が悪いと、直接的に損失が発生したり、関係を悪化させたりするリスクがある。

 そのためにも、次のステップ4で示す「考え方、動き方を伝える」が重要だ。顧客との交渉を任せるなら、「正しく状況を把握する」「不当な要求を受けた場合は、こちらに不利な約束をしたり、相手にあとで責める口実を与えたりしないようにする」「勝てなくてもいいから負けないように動く」といったことを教えておく必要がある。

 さらに、ステップ5で後述するが、リーダーへの報告と相談を怠らないようにすることも、重々言い含めておく。

Step4 考え方、動き方を伝える

 役割を与えたら、実務を通じて考え方と動き方を教える。これには根気がいる。大事なのは、最初はリーダーが自分でやってみせることである。つまり「ティーチング」を行い、実践する様子を見せて理解させる。

 気を付けたいのは、候補者に考えさせる「コーチング」の手法を最初から用いない、ということだ。腹心の候補者は、リーダーの考え方と動き方が初めから分かっているわけがない。「この場合はどうしたらいいと思う?」と問いかけても、候補者はリーダーが期待する答えを返せない。

 ただしティーチングをして候補者の頭に入ったと判断したら、その後はひたすらコーチングを行う。リーダーが懇切丁寧にやってみせているうちは、候補者は成長しない。多少うろ覚えでも頭に入ったなら、あとは自分で考えながら実践させることが必要である。

 ここまでに紹介したステップ2~4は、1回やったら終わりという性質のものではない。腹心としての役割は重く、仕事は難しい。上手く仕事ができないと、次第にストレスがかかり、モチベーションが落ちてくる。

 このような状況では、毎日でもステップ2の動機付けを繰り返す必要がある。毎日5分でもよい。候補者に対して常に声をかけ、コミュニケーションを取り続けることが重要である。

 ステップ4の考え方、動き方を伝えることも継続的に行いたい。答えが出ずに悩んでいるようなら、声をかけて助言したり、リーダー自身の過去の経験、知識を話したりするなど、参考になる情報、ヒントになる情報を伝える。これを繰り返すことで、候補者の考え方、動き方がリーダーの期待に近づいていく。

Step5 権限移譲を進める

 最後のステップは、候補者の能力の高まりに合わせて、権限委譲を進めることである。権限委譲が進むにつれ、候補者は本当の腹心になっていく。逆の言い方をすれば、リーダーがいつまでもすべての権限を握り候補者に仕事を任せないなら、腹心は育たない。

 「権限を渡して大丈夫か」「失敗したら問題にならないか」という不安があるだろう。しかし段階的に権限委譲を進め、報告と相談を義務付ければ、大きな問題は起こらない。

 腹心となる部下がリーダーに報告と相談をしながら、責任を持って意思決定をする。これによって初めて、上司と部下の上下関係から対等な信頼関係に発展する。このステップは、案ずるより産むが易やすしの気持ちで、思い切って進めてほしい。