あらゆる業界でビジネスのデジタル化が求められている。ただし、全ての企業が成功しているわけではない。むしろうまくいかないことのほうが多い。今回、匿名を条件に取材に応じた当事者の証言から、デジタル化の失敗パターンがはっきりと見えてきた。

 人工知能(AI)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)といった最新技術を使って、新しい業務プロセスや新規事業を生み出す「デジタル化」。多くの企業で今、こうしたビジネスの大変革が模索されている。しかし、少なくない数の企業でプロジェクトがとん挫しているのも事実だ。これまで、何をすればよいのか分からずに迷走する企業や、はやり言葉に飛びついて失敗する企業など5パターンを紹介してきた。

 これらとは別に、社内のルールや常識、古くからの慣習などがデジタル化を阻害するパターンが存在する。

パターン6:後続の芽を摘む「動かない新規事業」

 サービス業で働く須賀康史(仮名)はVR(仮想現実)を使った画期的な顧客サービスを企画し、意気揚々と会社に提案した。しかし、提案は通らなかった。理由は、新規事業開発部(仮称)が1年以上前から、別のVRサービスを企画していたからだ。経営層からは「似て非なるサービスをもう1つ作る意味がない」と一蹴された。

 では、新規事業開発部のVRプロジェクトはうまくいっていたのか。実はずっと停滞したままだった。プロトタイプのサービスまでは作ったものの、マネタイズの方策が見つからず、1年経っても事業化できずにいた。

 そんな状態だったにもかかわらず、新規事業開発部が先にVRの企画を進めていたという理由だけで、経営層は後から出てきた須賀の提案を精査することなく、「似たようなVRの話」と見なして却下した。須賀の新規事業にかけるモチベーションが著しく低下したのは言うまでもない。須賀が考えた新サービスの芽は、事業化できずに停滞しているプロジェクトに摘まれてしまった。

 経営判断として、先に始めたVRプロジェクトをいったん中止し、須賀のアイデアを生かすことはできなかったのか。この企業の場合、プロジェクトの中止を決める基準が曖昧で、判断が難しかったようだ。

 プロジェクトは試作段階であり、本サービスの開始日が決まっていたわけではない。しかもこの案件には兼務で数人が携わっていただけで、多額の投資をしているわけでもない。経営層がプロジェクトを中止できない理由は少なかったはずだ。「小さく始める」ことがデジタルサービスを生み出すときのセオリーとはいわれているが、小さなままで育たず、いつまでもマネタイズができないプロジェクトは、例えば1年を区切りとして代案を検討するとか、撤退する条件を決めておく必要があった。そうしなければ、新しいアイデアの実現に、リソースを割けない。

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