重い物は運べない。風が強くなる上空には上昇できないし、バッテリーで動くので長時間のフライトは難しい。物資の積み込みは可能だが、せいぜいみかん箱1個程度まで。ましてや人が乗り込むことは不可能だ。
これまでの航空機にできることが、ドローンでは何一つできない。それなのになぜ今、ドローンに大きな注目が集まるのだろうか?それは、ドローンが人間に代わって様々な仕事をこなすことができるからだ。
ドローンの存在を広く世に知らしめた仕事が空撮だった。鳥目線そのままに、滑らかでダイナミックな映像が、世間の関心をドローンに引きつけた。この空撮向けドローンで創業し、いまや世界最大のドローンメーカーに成長した企業が、中国のDJIである(写真1)。
空撮の仕事が成功したことで、ドローンへの期待は一気に高まった。同じくカメラを積んで、ほかの仕事も任されるようになる。自然災害の被害状況を把握するために、現場の上空から地上の様子を撮影するといった仕事だ。人間では立ち入れないような場所でも、ドローンなら空中からアプローチできる。2016年4月に発生した熊本地震では、実際に行方不明者の捜索で利用された(写真2)。
トンネルや橋梁の点検作業も、カメラを積んだドローンに任せようという動きが出ている(写真3、写真4)。全国にトンネルは1万1024カ所、橋梁は72万5907カ所もあり、その全てに5年おきの近接目視点検が義務付けられている。人手の作業では足場を組む必要もあり時間もコストもかかるが、ドローンなら飛ばすだけで済む。
活躍の場は、農業の現場にも広がっている。ドローンメーカー最大手のDJI JAPANが、農薬散布に特化したドローンを発売した(写真5)。農薬散布は、これまで無人ヘリコプターが担ってきたが、機体価格が1000万円を超えるうえ、操縦が難しいので、専門業者に依頼する必要があった。
これに対しDJI JAPANの農薬散布専用ドローン「AGRAS MG-1」は180万円前後。しかも3~5日間の講習で操縦ノウハウを習得できるので、自農家はドローンを所有して自分たちの計画通りに農薬散布作業も進めることができるようになった。
人手不足が深刻化している物流現場でも、ドローンへの期待は高い(写真6、写真7)。離島や山間部、高層マンションなどエリア限定した実証実験が、全国各地で進んでいる。
自然災害が発生して既存の社会インフラが機能不全に陥ったとき、ドローンの働きが社会的な不安を解消するかもしれない。拡声器を積んで上空から避難誘導したり、小型基地局を積んで臨時の携帯電話基地局を構築したりする試みもある(写真8、写真9)。