未経験の新しい技術を活用したり、新事業の立ち上げを目指したりする「攻めのIT活用」では、不確実な要素が多いので、長期の詳細な計画を立てるのはデメリットが多い。

 「ビジネスゴールに到達するための手段が、プロジェクト中に変わる」。野村総合研究所の丸山真生サービスシステム事業一部グループマネージャーは、攻めのIT活用の特徴をこう説明する。

 基幹系をはじめとした従来のプロジェクトでは、システムの要件を早い段階で明確にして、目標とするQCD(品質、コスト、納期)を満たすように開発していく。一方、攻めのIT活用では、より良いビジネス成果を得るためにプロジェクト中に試行錯誤を繰り返す。

 ゼンアーキテクツの岡大勝CEO兼主任アーキテクトは「深層学習のアルゴリズムは複数あるが、精度や性能は実装してみないと分からないことが多い。駄目ならほかの技術を選択する、という進め方をする。早い段階で先を見越した詳細な計画を立てるのは難しい」と話す。

詳細な計画は直近だけにする

 深層学習技術を利用して、他社の保険証書をタブレット端末で撮影するだけで見積もりを自動作成する「カシャらく見積もり」を開発したSOMPOホールディングスの中林紀彦データ戦略統括/チーフ・データサイエンティストは「ゴールを見据えたプロジェクト全体のWBS(ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー)は作らなかった」と話す。

 中林氏は3カ月単位でフェーズを分け、WBSを作成するのは直近のフェーズだけにしている。カシャらく見積もりを開発したプロジェクトでは、全体計画は「最初の3カ月でPoC(概念検証:アイデアの実現可能性の検証)を実施して、後の2フェーズで実装や稼働準備を行う」というレベルにとどめた。

WBSを作成するのは直近だけにする
WBSを作成するのは直近だけにする
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 プロジェクトを始めたとき、最初の3カ月(フェーズ1)については、WBSを作成できるレベルの計画を立てる。フェーズ2以降は概算のコスト見積もりだけで、詳細な計画は作らない。詳細な計画を立てるのは、そのフェーズに入ってからにする。