リビングに置ける音声チャットボット機器の開発で、異色のアプローチを採るのがシャープだ。

 2012年、音声AIによる対話機能を搭載した掃除機「COCOROBO(ココロボ)」を発売したのを皮切りに、冷蔵庫、スチームオーブン(ヘルシオ)、空気清浄機、エアコンと、次々に「対話できる家電」を発売した。

 米アマゾン・ドット・コムの音声AI「Alexa」が、パートナー企業と組んで白物家電への組み込みを本格化したのは、2017年のこと。シャープの戦略は、ある意味において米国の動きを先取りした…と言えなくもない。

 そして2016年5月、シャープは音声で対話できるロボット型携帯電話「RoBoHoN(ロボホン)」 を発売した。

 愛らしい動作や癒される対話、ゲームやクイズといった小ネタをこなせる。1台20万円という高価な点を除けば、国内の音声チャットボット機器の中ではユーザーレビューなどでおおむね高い評価を得ている。「ロボット型」という、ユーザーの期待値レベルが高くユーザーを満足させることが難しい製品群にあっては、出色の存在だ。

 「2013~14年、音声認識の精度が急速に高まったことが、音声認識の応用を広げる契機になった」。ロボホンの音声認識技術を開発するシャープ IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部 プロダクトソリューション開発部長の宇徳浩二氏はこう語る。

写真●ロボホンの音声認識技術を開発するシャープ IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部 プロダクトソリューション開発部長の宇徳浩二氏
写真●ロボホンの音声認識技術を開発するシャープ IoT通信事業本部 IoTクラウド事業部 プロダクトソリューション開発部長の宇徳浩二氏
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 「ディープラーニング(深層学習)の導入で認識精度が飛躍的に向上した。今ではスマホでメールを書く際、音声で入力すればほとんど間違えずにテキスト化してくれる。『音声のテキスト化』で誤認識が減れば、その先の応用が一気に広がる」(宇徳氏)。同氏が属するIoTクラウド事業部は、こうした技術動向を踏まえ、ロボホンを含むシャープの家電向け音声AIに共通する基盤技術を開発している。

 今回は宇徳氏の話をもとに、ロボホンの音声AIの秘密に迫る。

クラウドとローカルのハイブリッド構成

 ロボホンの対話機能を実現する音声認識エンジンの特徴は、ロボホン本体とクラウドの双方で同時に認識を行う、ハイブリッド構成になっている点だ。

 ロボホンの場合、クラウド側の音声認識エンジンには米ニュアンス・コミュニケーションズのエンジンを採用している。「認識の基盤となる辞書データも豊富で、学習機能も優れている」(宇徳氏)。

 一方でローカル、つまりロボホン本体側は、アドバンスト・メディアの音声認識エンジンを採用した。ロボホンは、スマートフォンなどで使われる米クアルコム製のプロセッサを内蔵しており、このプロセッサで音声認識処理を実行している。

 近年の音声チャットボット機器は、Amazon Echoや米グーグルの「Google Home」など、いずれもクラウド側で音声を認識している。

 シャープが持つ他の「対話する家電」も、基本的にはクラウドで音声認識している。白物家電のマイコンでは、音声認識のような高負荷な処理を行えないためだ。

 クラウド型音声認識エンジンの利点は、巨大な辞書データと豊富な計算資源が使えること。ローカル側に高価なプロセッサを積む必要がなく、機器のコストも抑えやすい。

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