2016年3月、歴史的な「事件」が起こった。米Google DeepMindが開発した人工知能(AI)の囲碁プログラム「AlphaGo」が、世界トップレベルの実力を持つ韓国のプロ棋士、李世ドル(イ・セドル)九段に4勝1敗と大きく勝ち越したのだ。

 チェスや将棋では、AIは既にトッププロと互角以上の実力に達しているが、手数が圧倒的に多く複雑な囲碁では、トップレベルに到達するにはまだまだ時間がかかると思われていた。その予想が覆されたのである。

 AIの活躍は囲碁にとどまらず、業務のシステムにも広がりを見せている。例えば、みずほ銀行や保険のMS&ADインシュアランス グループ ホールディングスがコールセンター業務支援に米IBMの「IBM Watson」を適用するなど、金融機関向けのプロジェクトが進んでいる。

 また、2015年からIBM Watsonを活用する東京大学医科学研究所では、専門医師でも診断が難しいがんを、AIが短時間で見抜く成果が出たという。このようにAI技術は予想をはるかに上回るスピードで進化し、適用範囲が広がっている。

 一連の成果も追い風となって、AIは今、3度めのブームのさなかにある。業務システムの開発に携わるITエンジニアから見れば、AI技術やそれに関連するスキル、知識を身に付ければ、活躍の場が広がるチャンスといえる。

 そこで以下では、AIの歴史を概観するとともに、最新のAIの仕組みや特徴について解説する。さらにITエンジニアが活躍の場を広げるために、AIにどのように向き合えばよいかも論じる。

機械学習が3度めのブームを牽引

 初めに、AIがどのような歴史をたどってきたのかを確認しよう。AIは過去にも2度、ブームが起きた(図1)。

図1●人工知能の歴史
図1●人工知能の歴史
[画像のクリックで拡大表示]

 第1次ブームは、AIという言葉が誕生した1950~1960年代である。推論・探索と呼ばれる技術要素によって、人間と同様の知能を表現しようとした。しかし、パズルや簡単なゲームこそ解けるようになったものの、実用性のあるものはほとんどできなかった。

 第2次ブームは1980年代に起こった。この時期は専門家の知識をルールとして教え込み、問題を解決させようとする「エキスパートシステム」の研究が進んだ。ビジネスへの応用例が出てきたものの、その適用範囲は限られ、ブームは次第にしぼんでしまった。人間がAIにルールを教えることは思った以上に難しかったのである。

 現在の第3次ブームの原動力となっているのは、先進的な機械学習が実用レベルに達したこと。機械学習とは、コンピュータに多数のデータを学習させ、人間のように音声や画像を認識したり、最適な判断を下したりできるようにする技術である。

 機械学習の考え方自体は新しいものではなく、原型は1960年代に登場している。ただし、実用レベルに達するまでに時間がかかった。

この先は日経クロステック Active会員の登録が必要です

日経クロステック Activeは、IT/製造/建設各分野にかかわる企業向け製品・サービスについて、選択や導入を支援する情報サイトです。製品・サービス情報、導入事例などのコンテンツを多数掲載しています。初めてご覧になる際には、会員登録(無料)をお願いいたします。