ARやVRのビジネスへの活用熱が高まるなか、ITベンダーも新技術の開発や、ユースケース(活用法)の提案に力を入れている。そこで今回は各社が提案するユースケースを見ていくことにしよう。最後の別掲記事では、アートやスポーツなどへの適用例を紹介する。そこからビジネス適用へのヒントをつかもう。

 機器に組み込んだセンサーからのデータを集めてリアルタイムに機器の状況を把握できるようにするIoT(モノのインターネット)。この技術にARを組み合わせれば、機器のメンテナンス業務は、容易でスマートになる。そんな提案をしているのが、PTCジャパン(東京・新宿)だ。

保守対象の機器情報をすぐ呼び出す

 2016年10月、東京・有明で開かれたIT関連の総合イベント「ITpro EXPO 2016」の会場で、ARをIoTと組み合わせることで、体内に埋め込んだ人工心臓や、自動車のエンジンの稼働状況を、瞬時に把握できる仕組みを出展した。

 例えば、エンジンのメンテナンスの場合、エンジンに貼られたマークを、iPadのカメラ機能を使い専用アプリでスキャンする。ほどなく、iPadの画面に映し出したエンジンの映像に、そのエンジンの燃料やエンジンオイルの量などを示すIoTデータが、ARで表示された。

 その表示は直感的でシンプルだ。かざしたiPadの画面上には、エンジンに組み込まれたセンサーからの数値データがアイコンとともに、エンジンの周りを囲むように表示される。オイル残量などがすぐ分かる。

 稼働中の機器に組み込んだセンサーからのデータを集めてもデータの見せ方を考えないと、IoTのメリットを最大限に引き出せない。担当者が、メンテナンス対象機器の稼働データをシステム上で探し出したり、データを表示させたノートパソコンの画面と実機を交互に見ながら作業したりしていては、状況を素早く把握し、判断を下すことは難しい。

 PTCのデモでは、iPadをかざすだけで、メンテナンス対象の機器のデータをすぐに呼び出せる。状況把握や判断もスピーディーに進むというわけだ。

PTCジャパンはARやVRにIoTやCADのデータを組み合わせる活用策を提案
PTCジャパンはARやVRにIoTやCADのデータを組み合わせる活用策を提案
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 PTCは現在、タブレットやスマートフォンだけ使えるこの仕組みを今後、ARコンテンツを表示できるスマートグラス型コンピュータ、米マイクロソフトのHoloLensでも使えるようにしていく。

 そうなれば両手が使える。「メンテナンス担当者は、HoloLensに映るIoTデータを見ながら機器を調整することが、姿勢を変えることなくできる」と、PTCジャパンの成田裕次製品事業部執行役員は話す。

 出展したアプリは、PTCジャパンのIoT基盤ソフトThingWorxの開発環境「ThingWorx Studio(旧Vuforia Studio Enterprise)」で開発した。見せたいアイコンやIoTデータなどを盛り込んだARコンテンツを、プログラミングをすることなく、ビジュアルに開発できる。今回出展のアプリも、数日で開発できたという。

 また、エンジンの稼働状況を把握するアプリでは、iPad上に映ったエンジンの映像に、同じ形のエンジンの3次元モデルを表示。部品の分解手順を3次元モデルのアニメーションで示す機能も持つ。

 このアニメーションも、3次元CADデータからアニメーションを作成することができるソフト「Creo Illustrate」を使って、1日程度で完成させた。「簡単にCGアニメーションを制作できるソフトがあれば、作業手順を教えるコンテンツを増やせる。製品の購入顧客に対して、製品の取り付け手順を示すアニメーションも手軽に提供できる」と成田執行役員は、メリットを語る。

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