「ITインフラ Summit 2017」の特別講演には、日本サッカー協会で技術委員長を務めた霜田正浩氏が登壇。日本代表が、試合の分析データをどのようにチーム強化につなげているか、選手個人のデータをどのようにパフォーマンス向上へ役立てているかを明かした。

日本サッカー協会 前技術委員長 霜田 正浩 氏
日本サッカー協会 前技術委員長 霜田 正浩 氏

 サッカー日本代表と一口に言っても、年齢制限のない「A代表」、23歳以下で構成される「U23」、同じく「U20」「U17」、さらにフットサルやビーチサッカーと、男子だけでもさまざまなチームがある。もちろん、女子にも代表チームがある。

 講演の冒頭、各代表の活躍ぶりを紹介するビデオを流した後に、霜田氏は次のように語った。「一番の目標であるワールドカップやオリンピックで勝ち抜いていくためには、国際試合の経験や知識などを、上から下まで各代表の垣根を越えて共有しなければならない。そのためには、データ活用が欠かせない」

 サッカー日本代表が活用しているデータは、大きく2種類あるという。その一つが選手の体調を管理するためのデータだ。起床時の体重や脈拍、唾液の成分などを測定し、選手の疲労度を把握する。選手は疲れていても「大丈夫です」と答えることが多く、主観だけでは選手の疲労度を把握できない。そこで体調に関するさまざまなデータをとり、選手の主観も参考にしながら、体調を判断する。

 運動量と疲労度の相関の度合いは選手ごとに異なる。そこで、練習の際にはGPS(全地球測位システム)を付けたベストを着用してもらい、選手ごとの運動量を測定する。これをデータ化し、選手一人ひとりの体調を、より正確に把握するように努めているという。

 日本代表にとって重要な、もう一つのデータが、試合の分析データだ。試合の分析手法では欧米が先行しており、イングランドやドイツなどの強豪国では「トラッキングシステム」と呼ばれる手法を用いて、試合中の選手のプレーをデータとして保存しているという。このシステムでは、個々の選手の走行距離や、相手からボールを奪取した回数など、多様なデータを測定する。現在は、日本でも同様のシステムを導入している。

 「相手よりも多く走れ」「相手からなるべく多くボールを奪え」といった抽象的なアドバイスではなく、「1試合当たり12キロメートル走れ」などと数値を示した具体的なアドバイスを出すことで、選手のモチベーションは高まるという。

 霜田氏はサッカーの特徴について、「グラウンドの状況や選手一人ひとりの状態が常に変化するため、試合で過去のプレーを再現することが難しい競技だ」と指摘する。「日本代表は、データの活用という点ではイングランドやドイツに比べまだまだ遅れている。良いプレーや得点場面を、どんな相手にも再現できるように、データを活用して日本代表の強化につなげていくことが必要」。こう語って、霜田氏は講演を締めくくった。

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