「ITインフラSummit 2017」の基調講演で楽天の向井秀明氏が登壇し、ドローン(小型無人飛行機)を活用した物流事業の取り組みを解説した。
向井氏は講演の冒頭、物流業界の状況を説明した。同業界でいま課題となっているのが、再配達の非効率性である。宅配便の取り扱い個数は増え続けており、それに伴って再配達も増加している。都内では、全宅配便のうち約35%が不在配達になり、労働生産性は大きく低下している。交通渋滞やドライバー数の減少、ドライバーの高齢化による労働力不足も深刻な課題だ。
物流事業者の多くが改善を試みているが、陸上を移動する方法では根本的な解決にはつながらない。そこで「革新的なソリューションとして、陸上ではなく『空の道』を活用するドローン物流が注目されている」(向井氏)のだという。海外でもドローン物流への機運が高まっており、欧州や米国、中国などで実証実験が行われているという。
EC(電子商取引)サイトの運営を通して物流に関わっている楽天も、ドローン物流に参入。2016年5月には世界で初めて、商用サービスとしてのドローン物流を開始した。「そら楽(そららく)」と名付けられた、このサービスは、顧客がECサイトで注文した商品をドローンで届ける。
第一弾として、ゴルフ場でプレーヤーがスマートフォンの専用アプリを使って、ゴルフ用品や軽食、飲み物などを注文すると、ドローンがコース内の受取所まで商品を届けるサービスを開始した。これまで100を超える配送回数の中で事故は1度も起きなかったという。
「そら楽」のサービス提供の流れはこうだ。パソコン上のダッシュボードで顧客の注文を確認したスタッフが、商品を箱に詰めてドローンに搭載。ダッシュボードからの指示を受けたドローンが離陸し、受取所に着陸して商品を降ろした後、自動的に戻ってくる。この間の制御は、全てドローンが自律的に行っており、ラジコンによる遠隔操作は必要ない。
今回使うドローンは、16年3月に楽天が出資した自律制御システム研究所(ACSL)が開発した機体を、本サービスの専用ドローン「天空」として改良・開発したものだ。新たに荷物を着陸後、自動的に切り離すリリース機能を搭載するとともに、着陸には楽天技術研究所の画像認識技術を活用している。天空の機体には、ACSLによる独自開発の国産オートパイロットが搭載されており、強風時でも高い飛行安定性能を発揮するという。
同社は「新たな利便性の提供」「買い物弱者の支援」「緊急時のインフラ構築」という3つの柱でドローン物流に取り組んでいく方針。向井氏は「ドローンをビジネスだけでなく、社会的意義のためにも活用したい」と力説する。
16年10月には、広島県・今治市国家戦略特区の取り組みの一つとして、今治市の離島でドローン配送の実証実験を実施している。この実証実験では、広島県と今治市における離島間での配送サービスを視野に入れている。
向井氏は「今後、ドローン物流を普及させるためには規制緩和が必要」と指摘する。同社の天空は自律的に離着陸・飛行できるが、現在の規制では、ドローンの運用に専門の操縦者が必要で、そのコストは1日で約10万円にもなるという。「操縦者が不要な自律飛行ならコストが安くなるので多くの事業者の参入が期待できるし、人的ミスのリスクを減らせるメリットもある」と、向井氏は規制緩和に期待を寄せる。
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