企業の経営状態や職場、生産ライン、店舗などの状況を誰でも“見える”ようにする「見える化」。この見える化がIoT(インターネット・オブ・シングス)と融合することで劇的に進化する。これを「IoT見える化」と呼ぶ。

 見える化の本質は、目に見えにくいものを見えるように工夫し、誰もがすぐに異常やトラブルの予兆に気づけるようにすることだ。

 もともと見える化は、トヨタグループの生産現場でラインの稼働状況を監視し、異常に気づけるようにするための取り組みから生まれた言葉だ。そして今、IoTの普及でより細かいデータを大量にそして瞬時に収集できるようになった。そのデータを目に見える形に加工することで、現場の状態を誰でも正確につかめるようになる。IoT見える化は、そんな理想的な姿を実現するものといえるだろう。

 ここで注目したいのは、ネットにつながるIoT対応機器からデータを集めてオフィスや家庭の状態を見える化すると、結果的には機器の稼働状態だけでなく、そこで活動する「人の行動」まで見える化できてくるという事実だ。例えば職場なら、IoTの端末として社員がスマートウオッチやビーコンを身に着けることで、その人の日々の行動を見える化できる。その動きにムダが見つかれば、改善の余地があると分かる。

 同様に、IoTに対応した車(コネクテッドカー)が普及すると、車の動きをデータ化できるのはもちろんのこと、車を運転するドライバーの心理状態まで予想しやすくなる。例えば、普段あまりスピードを出さない人が、その日に限って制限速度オーバーの運転をしていることがデータから読み取れれば、「今日はドライバーが急いでいる、焦っている」と想像できる。慌てていると事故に遭いやすい。ならば、カーナビに注意喚起を促すメッセージを表示するなどの対策を打つことが考えられるだろう。

 そもそも見える化とは、単に何かの状態を見えるようにするだけではダメで、「見えた結果を受けて、誰でも行動を変えられる」ようにしなければならない。これが見える化の真髄だ。IoT見える化になっても、それは同じである。

 IoTによって精緻なデータがリアルタイムで手に入り、現場の状態を数字で表現できるようになれば、異常に気づきやすくなる。そのときにどんな行動を取るべきか。その点まで事前に決めておくことが、IoT見える化を本当の意味で成果につなげる鍵となるだろう。