次の夏季オリンピック・パラリンピックが東京で開催される2020年は、企業から通信事業者までが「従来型の電話システム」を全面的に見直す節目になりそうだ。

 企業の場合は、卓上のビジネスフォンや自営のPBX(IP型含む)が見直しの対象となる。最近では全面的な廃止を伴う運用も現実的になってきた。スマートフォンで利用できるFMCサービスや、スマホと相性のよいクラウドPBXといった代替策が充実してきたからだ。

スマホの普及がクラウドPBXの利用を加速

 とはいえFMCやクラウドPBXは今新しく出てきたサービスではない。クラウドPBXと同様のサービスは、通信事業者各社やITベンダーが「IPセントレックス」と称して2000年代から提供している。FMCもサービス開始から約10年が経過している。ところが、「この1~2年でスマホとの組み合わせで導入する企業が急増している」(NTTコミュニケーションズ ボイス&ビデオコミュニケーションサービス部)とあるように、一種のブームを迎えている。

 現在のブームは、電話帳アプリやVoIP(Voice over IP)アプリなどスマホで内線電話を活用しやすくする付加サービスが充実してきたほか、「クラウド=資産を持たないという言葉の定着で、企業からの引き合いが強くなった」(NTT東日本第一部門ネットワークサービス担当)ことも背景にある。

 PBXの保守期限は一般に5~7年とされる。10年程度と長く設備を使う場合もある。2010年~2014年頃にはビジネスフォンやPBXの廃止まで踏み込めずに電話設備を更改した企業が多かった。次の更改期は2020年前後になる。これも従来型の電話をなくす好機になりそうだ。

 通信事業者にとっては、2020年度と見込まれるPSTNをIP網に移行させるプロジェクトの始動が転機になる。現在のPSTNは2025年頃に維持限界を迎えるとしてNTTが問題を提起し、総務省の下でIP網への移行策の議論が始まった。

 IP網への移行は、NTT以外の通信事業者の電話サービスにも大きな影響を与えるのは必至だ。NTTはIP網への移行を機にマイラインを廃止したい考えを打ち出している。電話に対する利用者のニーズも変化し、IPやモバイルを打ち出した電話サービスに需要が移りそうだ。

IP電話が従来型固定電話の契約数を逆転

 電話サービスの契約件数では、既に従来型の電話は役割を終え、IP電話や携帯電話への代替が進んでいる。

図1●電話サービスの契約状況
図1●電話サービスの契約状況
移動電話(大半は携帯電話)とIP電話が台頭する一方、従来型の固定電話は10年前に比べて加入者が半減。IP電話が契約件数で上回る状況になった。0AB~J番号で使うIP電話はスマホでの利用で需要がさらに拡大しそうだ。統計は個人契約と法人契約の合計で、総務省「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表」から作成した。
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 総務省の統計によると、NTT東西の加入電話にCATV電話と直収電話を合わせた「固定電話」の契約件数は2005年度末に5808万件あったが、2015年度末には2508万件と4割以下に縮小。一方で、一般には光回線経由で提供され固定電話を代替する0AB~J番号のIP電話の契約件数は、2005年度末の142万件から2015年度末には3075万件にまで増えた。2014年度末の時点で、0AB~J番号のIP電話が固定電話の契約件数を逆転していた(図1)。

 移動電話の契約件数も伸びが止まらない。2005年の段階で9648万件と人口比率で75%に達していたが、2015年度末の契約件数は1億6048万件と人口比率は125%を超えるまで伸びている。スマホを含む携帯電話の2台持ちや、モバイルルーターなどデータ通信専用端末の普及が背景にある。

 IP電話の内訳では、2008年の時点で0AB~J番号を使える0AB~J型サービスが、050型サービスを上回る状況が続いている。企業に提供する直収型や、個人に光回線で提供するIP電話サービスが伸びたためだ。

 ここにきて、0AB~J型IP電話サービスの普及がさらに加速する材料が出てきている。「スマホで使える0AB~J型のIP電話サービス」が増えているのだ。現在のところ、需要をけん引しているのは法人向けにクラウドPBXやFMCサービスと組み合わせるIP電話サービスである。

 一方で、個人でも契約できるサービスも登場している。ニフティが2016年3月に開始したサービス「ShaMo! by NIFTY BIZ」は個人事業主やSOHO向けのサービスで、契約そのものは税務署への開業届があれば個人名義でもできるという。日本通信は一般の個人も契約できる、0AB~J番号のFMCサービスを計画中だ。「0AB~J番号はIP電話でも加入電話でも固定で使う」という概念は崩れつつある。

 国内の電話サービス契約は、今後も移動電話と0AB~J型IP電話が従来の固定電話を置き換えていく構図が続きそうだ。0AB~J型IP電話は契約が伸びていても、主にモバイル環境での利用傾向が強まるかもしれない。

PBX▼
Private Branch eXchange。構内交換機。ビル構内で内線電話網を実現するための交換機。
FMC▼
Fixed Mobile Convergence。携帯電話を屋内では固定回線経由で利用できるような、移動通信と固定通信を融合したサービス。現在は、携帯電話で固定電話番号を使えるようにしたサービスが主流。
クラウドPBX▼
PBXの機能をインターネットなどネットワーク経由で利用できるようにしたサービス。
PSTN▼
Public Switched Telephone Network。加入電話網。
マイライン▼
優先的に接続する中継電話サービスを事前登録で選べるサービス。
直収電話▼
NTT東西以外の通信事業者が加入者線も含めて加入者に直接提供する電話サービス。
0AB~J番号▼
固定電話に使われる電話番号の形式。冒頭のゼロも含めて番号を「0ABCDEFGHJ」と表現できるため、「0AB~J」もしくは「0ABJ」と略すようになった。
移動電話▼
内訳は携帯電話とPHS、BWA(Broadband Wireless Access)。契約件数の96%を携帯電話が占めている。
SOHO▼
Small Office/Home Office。

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