「事務処理に重大な遅延が生じるなどの問題が想定されます」。

 2017年11月、市区町村が運営する国民健康保険の手続きを説明した自治体のホームページにこんな文言が相次いで掲載された。マイナンバーをキーにした「情報連携」と呼ぶシステム処理によって、本来ならば添付書類を出さなくてもマイナンバーを提出しさえすれば国民健康保険の手続きができるはずだった。しかし実際には事務が遅くなるので、従来通り添付書類の提出を求めることを通知する文章だ。

 「国が情報連携できるといってもできないことばかり。添付書類を求めるしかない」。複数の自治体職員は異口同音に不満を漏らす。

制度実現に不可欠な仕組み

 マイナンバー制度は法律に基づき独立して意思決定をしている省庁や市区町村が、互いのシステムを連携させる壮大な制度だ。政府だけで約3000億円超とも言われる巨費を投じて、国や自治体がシステムを構築してきた。

 マイナンバー制度の理想を実現するために欠かせないシステム処理が情報連携である。国や自治体が管理する個人データのうち行政手続きに必要な情報をマイナンバーで結びつけ、専用のネットワークシステムを経由して互いに利用できるようにする。これまで国の省庁や自治体といった行政機関は、所管する行政手続きのために住民1人ひとりのデータを個別に管理しており、互いに連携していなかった。

 国は情報連携によって、住民が納税や年金、健康保険といった行政手続きのたびに提出を求められていた住民票や課税証明書などの添付書類が不要になると利点を説明する。自治体などには住民が行政手続きで提出していた添付書類を省くよう求めている。

 しかし情報連携が本格運用に入った11月以降も、多くの行政手続きで添付書類が必要な実態は大きくは変わっていない。マイナンバー制度の旗振り役である内閣官房は2017年11月に情報連携が可能な853の事務で添付書類が不要と公表したものの、ごくまれな手続きや自治体職員が誤りを防ぐために電話で確認が必要な手続きも含む。

 保育園などの利用申請で課税証明書を省略できるのは2018年7月以降。国民健康保険などの保険料算定に使われる地方税との情報連携も2018年7月に先延ばしされた。84の事務は引き続き「試行運用」のまま、従来と同じく添付書類を提出する必要がある。

「本格運用」、実態は名ばかり
「本格運用」、実態は名ばかり
マイナンバー制度の情報連携とマイナポータルの本格運用スケジュール
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