製品ごとの性能を示したのが図7のグラフである。全体的に、同時接続数が多くなるに従って、速度が減少しているのがわかる。原因としては「複数の端末が通信するため、それらの制御トラフィックが占める割合が大きくなる点」「複数の端末の通信によるバッファーメモリーのひっ迫」「プロセッサーや無線LANチップの処理の限界」などが考えられる。

図7●同時接続数が多くなると製品ごとの差が大きくなる
図7●同時接続数が多くなると製品ごとの差が大きくなる
製品ごとに、同時接続数が1、8、16、32、64のそれぞれの場合で端末ごとの通信性能を測定した。同時接続数が増えると性能に明確な差が生じている。
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製品ごとに際立つ特徴

 個別の製品の結果を見てみよう。まず、シスコシステムズの「Aironet 3702e」である。高価な製品だが、それに見合う性能を備えているのがわかる。1台接続時の最高速度が目立って高いわけではないが、64台の端末を接続しても、500Mビット/秒を超えている。これまで紹介した汎用のチップではなく、独自アーキテクチャーの無線LANチップを採用し、企業での使用に耐える製品になっている。

 最高速度が秀でているのがアスーステックのRT-AC88Uだ。端末台数が少ない場合に快適に利用できるように設計されているのがわかる。一方、多数の端末を接続すると、性能の低下が激しい。

 さらに、通信の方向を加味して通信速度を分析すると、同時接続が4台程度までは通信の方向に関係なく安定した性能を示すが、8台以上になると、有線LANから無線LANへの通信速度が50Mビット/秒程度で頭打ちになった。多端末で使うと、このAPの良さが失われてしまう。同時接続する端末が少ない場合に最高性能を発揮するようチューニングされているように見える。

 対照的なのが旧製品のRT-AC87Uである。最高速度はそれほど高くないものの、同時接続数が増えてもそれほど低下しない。Aironet 3702eに近いバランスが取れた性能になっている。64台接続時でも、400Mビット/秒を超える速度を維持したのは特筆すべき点だ。搭載するQSR1000の実力と考えられる。家庭向けの製品ではあるが、性能だけを見ると、多数のユーザーが同時接続する企業の無線LANサービスでも使えそうだ。

 ただし、無線LANから有線LANへの通信速度は100Mビット/秒で頭打ちになっていた。有線LANから無線LANへの通信速度を優先する設計になっている可能性がある。不特定多数にインターネット接続を提供する公衆無線LANサービスなどに使うのであれば問題ないが、無線LANに接続する端末からの通信が重要なカメラのストリーミングといった用途には向いていなさそうだ。

安価でもキラリと光る製品

 バッファローの「WXR-1900DHP2」は3×3:3の製品である。価格が1万5000円程度と低価格ながら、外部アンテナを採用するなどコストパフォーマンスが高い製品になっている。グラフが示すように、少数の端末での利用であれば、高い性能を享受できる。一方、多端末での利用は明らかに向いていない。特に、32台や64台の接続時には、総速度が極端に落ちるため、1端末当たりの速度は1M~3Mビット/秒程度しかない。

 最後が、アイ・オー・データ機器のWN-AX1167GRである。搭載しているチップは、安価な製品ではメジャーな台湾メディアテック製。絶対的な速度は高くないものの、同時接続数が増えた場合でもある程度の通信速度を確保している。約5000円という価格を考えれば、十分な性能といえる。

無線LANは面白い

 企業の無線LANは、接続する端末の台数や性能を特定しづらいこともあり、確実性を高めるために高性能なハードを投入してコストがかさみがちである。しかし、今回のように多端末の再現を含む精密な測定を行うことで、家庭向けの製品の中にも、多数の端末による同時接続に耐える製品があることがわかった。

 個人的には、この性能測定を通して、APベンダーやチップベンダーの「作り手の設計意図」が見えてくるのが興味深かった。これは無線LANが成熟と進化を繰り返している証拠であり、無線LANはいつまでたっても面白く楽しめるものだと感じている。

 6回の連載を通して、無線LANの理論よりも、無線LANを実用的に設計・構築・運用するための様々な知見を紹介してきた。どれだけ皆さんのお役に立てたかはわからないが、筆者が思う無線LANの面白さは共有できたと思っている。皆さんも楽しんで無線LANと付き合っていただければ幸いである。