山手商事で無線LANを運用する若手技術者、中村 舞。大江先生が何やら面白い実験をするという話を聞きつけて先生の研究室を訪れた。どんな実験なのか、興味津々の様子。

舞:「先生、面白そうな実験をやるって聞いたんですけど、何をやるんですか?」

大:「さすが舞ちゃん、耳が早いね。実は、いろんなベンダーが出しているアクセスポイント(AP)の性能を測定して比べようと思うんだ」

舞:「無線LANの性能って、規格で決まってるんじゃないですか?」

大:「規格で決まっているのは、あくまで性能の上限となる理論値だよ。製品が実際にどれくらいの性能を持っているかは、測定しなければわからない」

舞:「性能を測るって難しそう」

大:「うん。きちんとした測定装置や測定環境が必要だね。今回は、こうした装置や環境を持っている企業に協力してもらったよ」

 企業に無線LANを導入する際にどのAPを選べばいいかは、誰しも悩むところだろう。家庭の無線LANのように同時接続する端末の数がせいぜい数台であれば、実際にはどの製品を選んでも、性能にそれほど違いはない(図1)。したがって、その製品が対応する規格や機能、価格といった点を考慮して選べばよい。

図1●想定する同時接続数で製品を選ぶ
図1●想定する同時接続数で製品を選ぶ
同時に接続する端末数が少ない場合は、APにどの製品を選んでも性能に大差はない。同時接続する端末数が多くなると、製品ごとの差が大きくなる。
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 一方、APへの同時接続数が数十台レベルになると、製品ごとの性能差は大きくなる。一般に、企業向けを想定した高価なAPであれば、同時接続数が多くなっても性能の低下が少ない。製品の実際の性能を知ることで、かけられるコストに見合った最適なAPを選べるようになる。

5製品の性能を比較

 APの性能測定にはとても難しい問題がある。特に、多数の端末が同時接続した場合の性能を測定するには、その台数の端末を用意しなければならない。端末をレンタルで用意して測定したり、多数の端末が集まるイベントなどでモニタリングして測定したりできるが、大変なコストと手間がかかる。

 そこで今回は、米スパイレント・コミュニケーションズ製の無線LAN測定装置を利用してAPの性能を測定した。この装置は同時接続の状態をシミュレートする機能があるので、多数の台数の実機を用意しなくても、同時接続時の性能を測定できる。

 性能を測定したのは、表1に挙げた5製品。米シスコシステムズの製品は企業向け、残りの4製品は家電量販店などで入手できる家庭向け製品だ。企業であっても、SOHOや小規模な事業所であれば家庭向けAPを使うことが多いと考えられるため、こうした製品も対象にした。

表1●性能を測定したAP製品の主な仕様
表1●性能を測定したAP製品の主な仕様
台湾エイスーステック・コンピューターとバッファローの製品は主に家庭向け、米シスコシステムズの製品は主に企業向け。「MT」が付いているプロセッサー/チップは台湾メディアテック製、「BCM」が付いているプロセッサー/チップは米ブロードコム製、QSR1000は米クアンテナ・コミュニケーションズ製である。
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▼SOHO
Small Office/Home Officeの略。

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