インダストリー4.0への関心の高まりもあり、2015年に大きくブレークした「IoT(Internet of Things)」。企業の中にIoT専門部署が発足するケースが相次いでいる。このような動きを受けて通信事業者もIoTビジネスに本腰を入れ、手軽にIoTを試せる環境が訪れてきた。6社の先行事例を分析しながら、IoTビジネスの成功への道を探る。

実例1:リモート、NTTドコモ、JA全農
牛の分娩の見える化 高価でも投資対効果あり

 牛の分娩監視・発見システム「モバイル牛温恵」は、アナログデータの見える化によってIoTビジネスを生んだ実例だ。

 親牛の膣内に温度センサーを挿入。ネットワーク経由で、親牛の体温を5分間隔でアップし、スマホなどで確認できるようにした。温度の傾向から分娩の兆候が見えてきた場合、プッシュで生産者にメール通知する(図4)。

図4●牛の分娩兆候を“見える化”
図4●牛の分娩兆候を“見える化”
大分県のベンチャー企業「リモート」が開発し、NTTドコモとJA全農が全国展開する「モバイル牛温恵」。初期コストは40万~50万円ほどかかるものの、投資対効果は高く、現場の生産者は「無くてはならない仕組み」と高く評価する。
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 モバイル牛温恵のターゲットは主に和牛。ただ和牛は分娩に伴う死亡事故率約5%と少なくない。分娩の予想が外れることが多く、「1週間から10日間、予想がずれることは当たり前」(NTTドコモ 第一法人営業部 農業ICT推進プロジェクトチームの上原宏エグゼクティブプロデューサー)。業務負荷が課題になっていた。

 モバイル牛温恵はこの課題を解決する。牛の体温を見える化し、データ分析によって、24時間以内の分娩を予知する。平均体温が0.5度下がったらアラートを出すという単純な仕掛けだが、このルールを発見したことで高い確率で分娩予知が可能になった。栃木県芳賀郡芳賀町の床井和之氏は、いち早くモバイル牛温恵を導入した畜産農家だ。床井氏は「もはやモバイル牛温恵なしでは分娩作業は進められない」とその機能を絶賛する。

 モバイル牛温恵は決して安いシステムではない。初期コストは40万~50万円で、月額コストも5900円ほどかかる。ただ和牛の子牛は1頭、70万~80万円。分娩事故で牛を失うことを考えれば十分投資対効果が成り立つ。モバイル牛温恵は2015年末時点で約600の畜産農家に導入されるなど、農業ICTを推進するNTTドコモの中でも最大の成功事例という。

▼モバイル牛温恵
大分県のベンチャー企業であるリモートが開発。NTTドコモと全国農業協同組合連合会(JA全農)が2014年から全国展開する。

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