バーチャルリアリティ(VR)の業務利用が始まった。活用するのはヘッドマウントディスプレー(HMD)や全天球型カメラ。設備保守の現場や人体の内部をコンピュータで再現して、体感する。支えるのはスマートフォンやIoT(インターネット・オブ・シングズ)の要素技術だ。
「オーケイ、停止します」。フジテック製のエレベーターの天井上で、作業担当者は声をかけた。エレベーターが止まる。担当者はポケットからリコーのデジタルカメラ「RICOH THETA S」を取り出し、宙に掲げた。
THETA Sは360度全方向を撮影できる全天球型のカメラだ。フジテックは、このカメラで撮影した映像を社内システムにアップロードしてオフィスや事務所で確認できる仕組みを構築した(図1)。
「現場にいない従業員でもその場にいるのと同じように現場を確認できる」。同社 執行役員 情報システム部長の友岡賢二氏は説明する。活用を開始したのは2016年2月。現場の利用部門が情報システム部に申請すれば、全天球型のカメラを貸し出す手続きの仕組みも整えた。
エレベーターの開発や製造、保守などを一手に提供している同社。全従業員の約半数がオフィスではなく、現場で作業に携わる。
以前は、全天球型ではないカメラで複数の視点から撮影して現場の様子を記録していた。「数百枚の写真を撮影する場合もあった」(友岡氏)という。そうした手間をかけても、それぞれの写真が捉えた映像の位置関係が、分かりづらいという欠点があった。
エレベーターを納入する顧客とのやり取りでも、360度の映像が活躍する。部品の交換や設備の改修が必要になった際に、現場の様子を詳細に伝えられるようになった。フジテック 情報システム部の石岡早織氏は「顧客がエレベーターの点検現場には行かない場合でも、360度の映像を見せれば様子を伝えられる」と効果を語る。
フジテックが構築したのは「その場にいるかのように体感できる仕組み」だ。このように、現実にはその場に無いものをあたかも存在するかのように表現するVRの活用事例が増えている。