サイバー攻撃関連の報道で、「アノニマス(anonymous)」という言葉を目にすることがある。詐欺や金銭目的のサイバー犯罪者、国家が関与するサイバー攻撃とならんで、アノニマスなどによるハクティビズムは、現代のサイバー攻撃の3大勢力を構成している。
アノニマスは、「ガイ・フォークス」のお面がトレードマークというだけで、特定の団体や組織ではないなど、とらえどころがない。アノニマス、ハクティビズム、ハッカーといった言葉を、改めて整理してみたい。
アノニマスの定義は難しい
サイバーセキュリティおけるハッカー集団として、「アノニマス」を定義するのは難しい。本来の意味は「匿名の」であり、ウェブの掲示板では、IDやハンドル名を明かさない書き込みを意味する言葉、匿名アカウント名だった。ベテランエンジニアやシステム管理者なら、公開FTPサイトの共通アカウントが「anonymous」だったのを覚えているだろう。
ちなみにFTPとは、ウェブブラウザが普及する前、インターネット上でフリーソフトウエアやオープンソースソフトウエア、公開データをダウンロードするために標準的に使われた仕組みだ。
インターネットでは、匿名を意味する言葉として古くから使われていたこともあり、ハッカー集団としてのアノニマスの起源も特定しにくい。サイバー攻撃の犯行声明や、政策などの抗議活動としてアノニマスの活動が広がったのは2010年ごろからで、オーストラリア政府のインターネット規制に反対する勢力が政府機関へのサイバー攻撃を行った事件が、メディアで大々的にとりあげられた最初の事件とされる。
「ガイ・フォークス」のお面は、アノニマスの活動や犯行声明に欠かせないものになっているが、ガイ・フォークス(17世紀、陰謀計画を偽名で証言を拒否した人物)をモチーフとしたマスクやお面は、過去のさまざまな抗議活動にも使われている。アノニマスがガイ・フォークスのお面を使ったのは、このマスクをかぶった反体制派の人物が登場する映画「Vフォー・ヴェンデッタ」の影響とされる。
特定の組織でもなければイデオロギーにも依存しない
背景知識を説明したところで、以降は混乱を避けるため、サイバーセキュリティで問題となっているアノニマスに絞って話を進める。アノニマスは特定の団体や組織ではないと述べたが、意味するところは、ハッカーや攻撃者がアノニマスと名乗っているかどうかで決まるということだ。例えば、ある国の政府機関に、アノニマスを名乗る個人または集団からサイバー攻撃があったとする。
同時に、その国の反体制を唱える団体や組織(つまり、前者アノニマスとは対立する立場になる)にサイバー攻撃を仕掛けた集団が、アノニマスを名乗ることになんら矛盾はない。本来の意味が「匿名」ということを考えれば、自明なことかもしれないが、「アノニマス」とはそういう属性を指す言葉でしかない。