5月15日、日本経済団体連合会(経団連)が「デジタルエコノミー推進に向けた統合的な国際戦略の確立を」という提言を発表した。この中で、国内のデジタルトランスフォーメーションを進めるため「情報経済社会省(デジタル省)」の設立を唱えている。

 今のところ、業界団体による問題提起といくつかの提案を記した文書に過ぎないものだ。提言が指摘する日本市場の現状分析、課題とその対策については傾聴すべきものもあるが、全体として理想論に終始していて、具体策を欠いている感がある。

 その中、情報経済社会省(デジタル省)は、現状の省庁再編につながる提案であり、その他の「改革すべきだ」というべき論で終わっている部分より突っ込んだ印象がある。しかも、もし実現すれば民間へのセキュリティ政策にもかなり影響することが考えられる。

 例えば、企業にとっては、セキュリティ対策の指針やガイドラインが統一されて業界、業種ごとのばらつきがなくなり、業界のセキュリティレベルを高められる。その半面、今まで企業ごとに比較的自由に運用していたセキュリティ対策が、外的要因によって制限される可能性もある。業界ガイドラインなどが、今よりも強制力を持つようになるかもしれない。

デジタル省の目的と機能は?

 経団連がいう「デジタル省」は、内閣官房や各省庁に分散しているIT担当部局の機能を分離させ、一つの省にまとめるというもの。具体的に名前の挙がっている組織は、内閣官房IT総合戦略室、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)、内閣府知財戦略室、総務省、経済産業省、文部科学省など他の情報関連分野だ。

 狙いは、これら組織の機能を集約し、デジタル革命の中で各国から遅れている部分で、追いつき追い越すことだ。AIやビッグデータ活用を、特定企業(明記はないが、おそらくGAFAやグローバルで先行するITベンチャー)の寡占状態から、公正な競争ができる状態に持っていく必要がある。

 端的にいえば、クラウドプラットフォームを持たない企業や中小企業もビッグデータを活用しやすくし、あるいは業界を越えて共有・利用しやすくしなければならない。そのために、国レベルの支援と統合的なデジタル外交をしやすくする枠組みとしてデジタル省が必要だとする。

 提言では、現状では省庁ごとに進めるIT政策によって、業界ごとに似たような施策、取り組みが行われていること、予算や人材などが分散していることなどを、問題だと指摘する。いわゆる縦割り行政の弊害だ。経団連得意の「選択と集中」で効率を上げ、競争力を高めようというのだ。

 IT関連の施策は、ここ数年重点戦略とみなされている。比較的多額の予算がつきやすいので、各省庁が関連部門だけ切り離すことに同意するとも思えない。しかし提言では、省庁再編は困難でも、ある程度権限を行使できる省庁横断のフレームワークが必要だとする。

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