2016年7月27日に東京・目黒で開催された「ITインフラSummit 2016夏」。本稿では、インフラ活用の先進ユーザーや、インフラ関連ベンダーの専門家による多数の講演から、先進ユーザー3社の取り組みを紹介する。
基調講演の1社めは、基幹系の全面刷新に取り組む損保ジャパン。2社めのアサヒプロマネジメントは、アサヒグループ共通のアプリ/インフラ機能群をプライベートクラウドのサービスとして用意した。郵船トラベルは24時間365日の緊急対応が求められる法人向け海外出張支援サービスを強化する武器として、仮想化デスクトップを全面導入している。
基調講演:損保ジャパン日本興亜ホールディングス
130年来のビジネスのやり方を“リセット”して臨んだ基幹系刷新
「130年間続いてきたビジネスのやり方をいったんリセットして、次世代の保険事業に必要な機能をゼロから見直すことにした」。基調講演に登壇した損保ジャパンホールディングスの浦川伸一氏は、2015年4月から刷新に着手した基幹系システムの開発方針を、このように述べた。
浦川氏は、現在の経営環境を「VUCA」と表現する。これは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」という4つの英単語の頭文字を組み合わせた造語で、一言でいえば「先が全く見通せない環境」を意味する。
保険を含めた金融業界では現在、「FinTech」と呼ばれる動きが加速している。デジタル技術を活用して、新たなビジネスモデルや新サービスを構築する動きだ。基幹系システムの全面刷新を決断した背景には、「経営環境の変化に合わせて、新しいビジネスモデルやサービスを迅速に立ち上げないと競争に勝ち残れない」という危機感がある。浦川氏は、「基幹系の刷新は経営にとって重荷であるが、VUCAの時代に大きな価値を生むと判断した」と語る。
「SoE」を構築してデジタル変革を推進
新システムは大きく分けて、「SoE(Systems of Engagement)」と「SoR(Systems of Record)」という2つの特性を持つものになるという。SoEとは、簡単に説明すると「顧客とのつながりを維持・強化するためのシステム」で、デジタル技術でビジネスを変革する「デジタルトランスフォーメーション」を支えるものだ。一方のSoRは、直訳すると「記録のシステム」で、既存の基幹業務を支えるシステム全般を意味する。
同社の場合、SoRの領域では、既存のソフト資産を活用するレガシーマイグレーションという開発手法も選択肢にあった。だが最終的に、オープン系のテクノロジーで全面刷新するという決断を下した。
新システムは、基盤技術として「Java EE(Java Platform, Enterprise Edition)」を全面的に採用。既存の基幹系システムはバッチ処理中心だったが、新システムではバッチ処理を極力減らしてリアルタイム性を向上させる。約30のサブシステムに分割し、中規模プロジェクトの集合体として開発を推進していく計画だ。
個々のサブシステムには、軽量なサービスを組み合わせる「マイクロサービス」というアーキテクチャーを採用する。具体的には、アプリケーションを小さなコンポーネントの集合体にして、コンポーネント間の連携はHTTPベースのAPIであるREST(Representational State Transfer)などで実装する。
ビジネスルールは、アプリケーションプログラムから切り離して、「ビジネスルール管理システム(BRMS)」を呼ばれるシステムで一元管理する。これによって、システム全体のコードが大幅に減るという。現在、IT部門と事業部門が協力して、ビジネスルールの登録を進めているところだ。
浦川氏は、「VUCAの時代になった現在、自社のビジネスを支えるシステムのあるべき姿を描いてみるべきだろう。そして、現状のシステムとのギャップを、どのように埋めていくかという移行計画を立てることが重要だ」と指摘して、講演を締めくくった。