第一線のIT現場ではどんなポスト「モダンPM」を実践しているのか。PART3では、プロジェクトマネジャー6人に、独自のポスト「モダンPM」を聞く。いずれも変更を受け入れるものだが、そこには独自の工夫がある。

その1 岡田 大祐氏
小さく早くつまずく「失敗マネジメント」

 関西に拠点を置くある流通業のIT部門に、2012年からプロジェクトマネジャーとして赴任したケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズの岡田大祐氏(ディレクター)。当時、岡田氏の大きな悩みは、たった1人のメンバーの進捗遅れが、複数のプロジェクトに一気に及んでしまう状況だった。

 というのも、この企業では小規模の複数プロジェクトが同時並行して進む上に、ほとんどのメンバーが各プロジェクトを掛け持ちしていた。「リソースの問題で仕方がない。ただ、誰かに遅れが出ると他のプロジェクトに穴が開き、それを埋めるうちにプロジェクト全体が遅れるのは大きな問題だった」(岡田氏)。

 事前の計画に従って作業を進める「モダンPM」でも、リスケジュール(リスケ)は可能だ。しかし遅延が発生してから原因や影響範囲を分析し、スケジュールを引き直す従来のやり方では対応が間に合わない。場当たり的に火消しする方法もあるが、それでは本来のマネジメントとは呼べない。

 そこで岡田氏が実践したのは、小さく早くつまずく「失敗マネジメント」である(図1)。そもそも多くの遅れの原因は、当初の見当が外れて手戻りが発生したためだった。「不確実性が高まる中で、見当が外れるのは当然。逆にいかに早く失敗に気付くかが重要だった」と岡田氏は説明する。

図1●小さく早くつまずく「失敗マネジメント」
図1●小さく早くつまずく「失敗マネジメント」
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズの岡田大祐氏は四つのチーム規範で小さな失敗を早期に発見し、プロジェクトの進捗遅れを防いでいる
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 難しいのはどうやって小さな失敗を早期に発見するか。従来のようにプロジェクトの成果物と作業を分解した「WBS(Work Breakdown Structure)」の管理レベルをより小さくする方法では、逆に管理面の負担が大きくなる。そこで考えたのが、失敗を早期に発見する「チーム規範」だった。

 具体的な規範は四つある。一つは「30%レビュー」として、ドキュメントや画面・機能などの成果物は、30%程度の完成度で必ずレビューを受けることだ。見当違いの成果物を作り続けるのを防ぐのが狙いである。

 二つめは「イエローフラグ」。これは作業で問題が発生しそうなときは、その兆候が出たタイミングで周りのメンバーに知らせるものだ。

 三つめは「タイムマシン思考」。常に「3日後」「1週間後」など現在から時間を先送りしたときにどうなるかを考える。これにより、将来の問題発生を自ら察知できる能力を養う。

 最後は「トークストレート」だ。これは相手の立場に関係なく、率直に話す規範。上層部と本音でぶつかったり、他のメンバーにダメ出ししたりする。後になって噴出する問題の芽を早期に摘む効果がある。

 ところが、これらの方法を導入した当初は、失敗の早期発見につながらなかった。メンバー間の強い信頼感と協力意識がなければ、成り立たない仕組みだったからだ。この人と人のかかわり合いについても、モダンPMの弱いところ。そのため岡田氏は「失敗はむしろよいこと、大事なのは失敗が小さいうちに早く発見・報告し、みんなで助け合うこと」と説明。その結果、次第に進捗遅れが解消していった。

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