バーチャルリアリティ(VR)技術を使って、現場の業務を変えようとする動きが拡大し始めた。建設現場の施工管理や、設備保守、医療といった様々な分野での業務利用が始まっている。

 本特集の第2回では第1回に続き、30年間にわたってVRの研究を進めてきた、日本バーチャルリアリティ学会の会長を務める筑波大学 システム情報系知能機能工学域 エンパワーメント情報学プログラム 学位プログラムリーダー 教授の岩田洋夫氏に、VRの企業利用や今後の方向性について聞く。

(聞き手は岡田 薫=日経コンピュータ


写真1●日本バーチャルリアリティ学会 会長 岩田洋夫 氏
写真1●日本バーチャルリアリティ学会 会長 岩田洋夫 氏
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バーチャルリアリティ(VR)の企業利用はどの程度進んでいるのでしょうか。

 1990年代には既に、企業利用のためのVR開発が進められてきました。旧松下電工がシステムキッチンの内装を、VRで体験できるシステムを開発していました。新宿のショールームで展示もされていました。

 現在、業務利用が最も進んでいるのは医療です。私たちは2013年から肝臓手術のトレーニングシステムの開発に取り組んでいます。筑波大学の消化器外科との共同研究です。

 VRを使って表現した肝臓の映像に対して、手術の訓練をするものです。映像に触れようとすると、抗力がはたらくような仕組みを適用しており、肝臓に触れているような感覚も疑似的に表現しています。

 臨床の現場では失敗は許されませんが、VRなら失敗しながら学べます。外科手術のトレーニングには最適です。

VRとつながるIoT

最近注目を集めているIoT(Internet of Things)とVRの関係についてお尋ねします。IoTは、収集したデータをコンピュータのシミュレーションに利用するという意味では、VRと似ているのではないでしょうか。

 VRというのは、コンピュータでシミュレーションした世界を、人間が直感的に感じられる、という考えに基づいています。VRはあくまで、人間の感覚に訴える技術なのです。

 一方、IoTで収集したデータでシミュレーションしたとしても、必ずしも人間の感覚に訴える必要はありません。

 例えば、工場の生産ライン。生産設備の稼働状況をリアルタイムに把握できれば、生産工程の無駄を削減するのに役立てられます。VRで映像表現する必要が必ずあるとは限らない。もちろん、3Dデータを使うメリットがある場合もあります。

 むしろ、IoTの延長線上にVRがあると考えられます。定量的なデータを見るだけではなくて体験したほうが、より詳細に生産ラインの改善を進められる場合です。そのときVRが必要になるのです。

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