ここまではオフィスを新設してワークスタイル変革に取り組む3社の事例を見てきた。これらに先んじて変革を進めた企業では、新商品やITを活用した新サービスなどのイノベーティブな成果を生み出している。
キユーピー
[成果:新商品開発]部門間コラボでノロ防止スプレー
肌乾燥の悩みを「食べるヒアルロン酸」で解決─。キユーピーは2015年6月、サプリメント「ヒアロモイスチャー240」を発売した。人の肌の水分を保持する効果があるヒアルロン酸ナトリウムを配合したものだ。
キユーピーは1980年代から、ヒアルロン酸を化粧品や医薬品の原料としてメーカーに販売するビジネスを手掛けてきた。マヨネーズの原料、食酢の研究で確立した生物発酵技術などが基となっている。
ヒアルロン酸は一般に、化粧品に配合して塗ることが有効とされてきた。キユーピーのある研究者が「食べてみよう」と試すと効果を体感。口から取り入れたヒアルロン酸が、体内で吸収されることも確認した。
その成果を、ヒアルロン酸の事業部門に伝え共有。通信販売部門も巻き込み、BtoBの商材だったヒアルロン酸を使ったBtoC向け新商品開発プロジェクトを進めた。並行して研究者は、2015年4月に政府が開始した、科学的根拠を基に食品の機能を表示する「機能性表示食品制度」の届け出準備を担当。新商品はこの制度の適用第一号となった。
この開発ストーリーの舞台となったのが、キユーピーが2013年10月に新設したオフィス「仙川キユーポート」だ。東京・調布の工場跡地に地下1階、地上5階の新オフィス棟を開設し、首都圏に分散していた17事業所1400人を集約した。マヨネーズやタマゴなど様々なグループ会社の事業部門の社員とともに、基礎研究と商品開発を担う300人近い研究開発担当者もここにやってきた。実験室や新商品の試作場もあるキユーポートで研究開発にいそしむ。
キユーピー研究開発本部の濱千代善規執行役員本部長は「仙川キユーポートに来て、研究開発の担当者は、商品企画や製造、営業などグループ会社の様々な部門の担当者と対話しやすくなった」と話す。