「マイナンバー制度は先進国では最後発。海外視察などで徹底的に勉強し、学んだ成果を制度に生かしている」。こう明かすのは東京工科大学の手塚悟教授だ。個人情報保護委員会の委員で、総務省の個人番号カード・公的個人認証サービスの活用策を検討する有識者会議のメンバーを務める。
複数の政府関係者は「マイナンバー制度のモデルはオーストリア」と話す。オーストリアは2004年の電子政府法に基づき、セクトラルモデルと呼ぶ仕組みで無作為の12桁の数字からなる国民ID(識別子)を導入した。
一方で、日本が自ら考えなければならない点も多い。手塚教授によると、多くの国はまず紙ベースの個人番号の証明書で政府の業務を進め、ITの発達とともに電子化する、という形を取った。
これに対し「日本は行政手続きでマイナンバーの利用を始めると同時に、インターネットを介した電子社会の実現を目指している」(手塚教授)。そのぶん難易度が高く、国民に理解されにくい面がある。
個人番号カードに相当するものも、各国で異なる。オーストリアには物理的なカードはなく、一定の要件を満たせば保険証カードや携帯電話で代替できる。ドイツはICチップに内蔵したIDカードに個人情報を入れ、カードの中にある情報を自ら選んで提供する「自己情報コントロール型」を採っている。
電子社会のプラットフォームは日本に閉じたものとは限らない。「東京オリンピックに来た欧州の観客が、自分のIDカードをかざして入場できるようにする構想もある」(手塚教授)。国際連携を視野に入れて発展させようとしているのだ。