SaaS APIを活用したシステム開発では、上流工程の進め方も従来の開発スタイルと変わる。システム企画、要件定義、プロジェクトマネジメントの各担当者が何を知っておき、実行すべきなのか説明しよう。

 PART2で紹介したSaaS APIのメリットを引き出すために、SEやPMはどのような行動を取るべきなのか―。本PARTでは、その解を探ろう。上流工程に当たるシステム企画フェーズ、要件定義フェーズの担当者と、各工程のQCDS(品質、コスト、納期、スコープ)を管理するPMが実施すべきことを、専門家たちの知見から導き出す(図1)。

図1●上流工程の各担当者が検討すべきこと
図1●上流工程の各担当者が検討すべきこと
システム企画、要件定義、プロジェクトマネジメントの各担当者がそれぞれの領域で、効果的かつリスクの少ないSaaS API活用の方策を検討する
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 各担当者に課せられる役割で従来とは異なるポイントを洗い出すと、次のようになる。

 まず、システム企画担当者は「システム化目的から、SaaS APIの利用を判断する」役割を担う。アクセンチュアの樋口氏は「ビジネス面から求められるデリバリーコスト(システム開発の初期コスト)とデリバリー速度(システムを提供開始するまでの早さ)に注目して、システムでSaaS APIを使うべきかどうか考える」と言う。

 要件定義担当者は、システム要件を整理するとともに「目的に合うSaaS APIを探し、使うかを判断する」。SaaS APIの利用を決めた場合、システムの仕様はSaaS APIの制約を前提としたものになる。スコープの見直しが発生する場合もあるので、PMやシステム企画担当者とのコミュニケーションが必要になる。

 PMは、主にSaaS API採用に伴うリスクマネジメントを実施する。全体のリスクを見通して、システム企画、要件定義、設計、テストの各担当者と調整していく必要がある。以下に、各フェーズのポイントを見ていこう。

【システム企画フェーズ】「知っておく」だけで違う

 SaaS APIを活用した開発の上流工程のプロセスを図2に示す。

図2●SaaS API活用開発の上流工程のプロセス
図2●SaaS API活用開発の上流工程のプロセス
図の「担当者」はプロジェクトにおける役割を意味する。複数の役割を同一人物が担当しても構わない
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 システム企画フェーズでは「大きな枠組みがあればよい。スクラッチ開発、SaaS APIの責務を見分け、どういう目的で何の役割を負わせるのかを考える」(ゼンアーキテクツ 代表取締役兼主任ITアーキテクトの岡 大勝氏)。

 SaaS APIの利用を決める基準としては二つの考え方がある。

 一つはデリバリーコストを下げること。汎用的な機能を早期かつ安価に利用できるようにする。メール配信や機械学習、電話、認証、ログ管理などがそうだ。アクセンチュアの樋口氏は、コンサルティングの現場において「実装難易度が高かったり、運用が面倒だったりと、ユーザー企業で持つには“重い”機能にSaaS APIの利用を推奨している」と言う。システムが持つ機能のうち、企業の競争力への寄与が少ない「ノンコア」はSaaS APIに任せる。

 もう一つは、ビジネス上の要請でデリバリー速度を早くするというもの。「システムの早期稼働が重要であれば、競争力への寄与が大きいコア機能でもSaaS APIを使う」(樋口氏)。

 樋口氏は一例として「家計簿と連動して特売情報を送るような個人向けの新サービスを始めたい」というケースを挙げる。「スマートフォン向けの家計簿サービスでは特定の強いサービスがある。自前でそれに匹敵するシステムを作るのは、大きな工数を掛ける必要がある。それなら、家計簿部分はAPIを使ってSaaSの機能を借り、自社は特売情報を送信するロジックの開発に注力したほうがいい」(樋口氏)。これにより、システムの提供開始を早める。

 ココペリインキュベートの森垣氏は「システム企画担当者は、どういった分野にSaaS APIがあるのか知っておくだけでいい」と言う。「ニュース記事で見たというレベルでいい。これはSaaS APIで足りそうだと、感覚的に分かっているのといないのとでは大きく違う」(森垣氏)。

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