今年1月、東京・浅草の雷門わきに変わった自販機が設置された。英語で会話すると、お薦めの飲料を教えてくれる。難易度が高いシステムといえるが、開発期間はわずか3カ月。実現にはSaaS APIの活用が必須だった。SaaS APIがシステムの開発スタイルを大きく変えようとしている。
アサヒホールディングス、アサヒ飲料、野村総合研究所は2016年1月、「対話型自動販売機」(対話型自販機)の実証実験を開始した。自販機横の液晶画面に向けて飲料に関する質問を英語で発すると、適切な説明画面を表示する(図1右)。「日本語表示しかない自販機において、訪日外国人の購入支援として音声がどれだけ使えるのか実証したかった」(プロジェクトを先導した野村総合研究所 IT基盤イノベーション本部 デジタルビジネス推進部 主任コンサルタントの鷺森 崇氏)。
ただ、システムに実装するのは難しい。音声をテキスト化し、それを解析するという技術が必要になる。「とにかく短期間で試したいと言われた。複雑な技術をスクラッチ開発している時間はなかった」(鷺森氏)。
そこで、米Microsoftの機械学習SaaS「Project Oxford」に目を付けた。このSaaSが提供する二つのAPIが利用できそうだったからだ。音声をテキスト化する「Speech API」と、テキストから意味を抽出する「Language Understanding Intelligent Service」(LUIS)である。
結果、タブレットアプリとProject Oxfordを使い、対話型自販機のシステムを3カ月で組み上げた。自販機横の画面はAndroidタブレットである。タブレットアプリは、エンドユーザーが話した音声のファイルをSpeech APIに送る。音声は自動的にテキスト化され、LUISがテキストを解析して言葉の意味を抽出。意味を示す単語がタブレットアプリに返される。タブレットアプリはそれを基に、飲料の説明画面を表示する。
開発を担当した野村総合研究所の幸田敏宏氏(IT基盤イノベーション本部デジタルビジネス推進部 オープンイノベーション推進グループ 上級テクニカルエンジニア)は「スクラッチ開発したのはタブレットアプリだけ。最も時間が掛かったのは飲料の説明や成分表示の文面。技術面の実装に苦労した記憶はない」という。機械に人と会話させるような高度な機能を、SaaS APIで簡単に実装できた。