2016年3月21~22日の2日間にわたり、米サンフランシスコでマーケティングテクノロジーを議論する「MarTech USA 2016」が開催された。カンファレンスの各セッションを通じて頻繁に議論されたテーマは、「アジャイルマーケティング」と「マーケティングスタック」だった。

 全2回の前編となる今回は、マーケティングテクノロジーを展望するため、アジャイルマーケティングを中心にカンファレンスの内容を振り返る。

マーケティングとアジャイルアプローチの関係

 アジャイルマーケティングとは、ソフトウエア開発手法の一つであるアジャイル開発のアプローチをマーケティングに応用しようとするもの。アジャイルを積極的に適用しようとするマーケティング部門は、変化の激しい経営環境、特にデジタルマーケティング環境に展開するマネジメント方法論やビジネス哲学として、アジャイルマーケティングを捉えている。

 アジャイルはソフトウエア開発に従事するIT部門に馴染みのあるアプローチだが、国内のビジネスアプリケーションの開発実績は決して豊富とはいえない。特にエンタープライズ向けの大規模アプリケーション開発では、頻繁な要件変更を伴うアジャイルは、開発期間やコストを事前に見積もることが難しく、ユーザー企業もSIerもアジャイルの採用に消極的だった。

 背景には、これまで国内の大企業のIT部門がリードし、開発・導入してきたアプリケーションのほとんどが「System of Record(SoR)」であることと関わりがある。SoRは社内ユーザーを対象にしたトランザクションデータの記録を目的としたアプリケーションシステムである。正確性や信頼性を重視するため、要件を確定させてから次の工程に進むウォーターフォール型のアプローチが適している。

 一方で社外のステークホルダーである顧客や消費者とのエンゲージメント(つながり)を作り、それを維持するためのアプリケーションが「System of Engagement(SoE)」であり、SoRとは対照的に外部の経営環境の変化に対応する力が求められる。マーケティングアプリケーションはSoEの代表例であり、対象を小さな多数の機能単位に分割し、短期間に反復的に機能実装を繰り返すアジャイル型アプローチの方が適している。

 SoEとSoRの考え方は、ソフトウエアとの一体化が進んでいるマーケティング分野でも、それぞれの特性を理解し、それぞれに適したアプローチを採用することが効果的であることを示している。

マーケのアジャイル推進に欠かせない「細分化」

写真1●基調講演で話すScott Brinker氏
写真1●基調講演で話すScott Brinker氏
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 現在、企業は異なる特性を持つ二つのシステムに対して、バランスを取った投資を求められている。では、二つをバランスさせるとは具体的にどのようなことを指すのか。

 MarTech 2016を主催したScott Brinker氏は基調講演で企業は、「イノベーション(革新性)」と「スケーラビリティ(継続的な改善可能性)」のバランスをどう取るべきかについて議論していた(写真1)。

特性の相違に着目

 イノベーションは、スケーラビリティと全く相反する性質を持っているため、そのバランスを取る試みは企業にとって非常に難しいものになる(図1)。相反する性質のシステムに、同じアプローチでテクノロジーを実装するのは現実的ではない。

図1●イノベーションとスケーラビリティの特性の相違とアプローチ
図1●イノベーションとスケーラビリティの特性の相違とアプローチ
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