前回は、インバウンドマーケティングについてお話ししました。ネットの発達によって情報化が進展し、マーケティングの主体が「企業」から「お客様」にシフトしています。

 コトラーは「情報化時代は、情報民主化の時代であり、顧客は企業やその競合企業について、以前よりもはるかによく知ることができる力をつけてきた。情報のあり方が互角になり、力関係のバランスは顧客に有利になるように働いている」と言いました。

 情報化時代の前に当たる工業化時代は、情報の非対称性によって、お客様は企業よりも限られた情報しか持てませんでした。その中でマーケターは、情報をコントロールすることで需要を喚起していました。つまり、取引はマーケターによって引き起こされていました。

 情報があふれる現在では、企業が一方的に訴求するベネフィットは、お客様にとって信用に値しないものとなりました。ソーシャルネットワークの発達などもあって、お客様同士が製品について情報交換するハードルも低くなってきています。

 この流れは、B2C商材に限らず、企業向けのB2B商材においても同じようにあてはまります。インバウンドマーケティングは、マーケターからの、この流れに対する一つの回答といえるでしょう。そして、もう一つの回答が「アドボカシーマーケティング」なのです。

 「アドボカシー(advocacy)」とは「支援」「擁護」「弁護」などの意味です。この言葉を冠したアドボカシーマーケティングとは、企業がお客様に向かって売り込むのではなく、お客様自身が企業の代わりに製品について語ってくれる流れを作り出し、お客様が自発的に他者に製品を推奨して、実質的に企業と同じように「マーケティングの担い手」になってもらう手法です。

 企業による百の言葉よりも、お客様自身による推奨は、企業にとって何にも代えがたい最強のマーケティング効果を持ちます。究極の顧客サービスとして有名な、米国の靴などを扱う通販小売店「ザッポス」などがアドボカシーマーケティング例としてあげられています。B2Bの例はそれほど多くはなく、B2Cが中心のようです。

全てのお客様に完全で公平な情報を提供

 アドボカシーマーケティングについては、マサチューセッツ工科大学のグレン・アーバン教授の著書『アドボカシー・マーケティング 顧客主導の時代に信頼される企業』(英治出版刊)などが日本でも知られています。ロイヤリティの高いお客様は、推奨者として自分たちの商品をいろんな人にクチコミを広めてくれたり、擁護者としてこのブランド自体を守ってくれたりします。そのため企業からは、全てのお客様に対して完全で公平な情報を提供するのが鉄則になります。

 たとえ競合他社の製品であっても、お客様にふさわしいものであれば正直に紹介します。お客様にとっての最高の利益を追い求めることにより、企業はお客様の信頼を得られます。発想の軸足を完全にお客様におき、企業はお客様の良きパートナーとなるような活動を考えて実行します。

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