「事例のキャッチコピーは数字を入れるべきである」
「『業務効率化を実現』『堅牢なセキュリティを確立』のような定性的、あやふやな書き方ではダメだ」
「ユーザーへの説得力を高めるためにも、導入効果は『効率27%アップ』『1500万円のコストダウン』のように数字を入れて作るべきである」――。
事例原稿を執筆するときに、よく言われるアドバイスです。
こうした助言はもちろん正しいもので、数字がないよりはある方がよいに決まっています。しかし「数値表現しておけば、それだけで万事OK」とはなりません。もっと突っ込んで言えば「数値表現しただけでは無意味」というのが筆者の考えです。
では、どんな場合が無意味なのでしょうか。まず第一に「根拠のない、適当な数字である」という場合。そして第二は、結構よくあるのですが、「その数値効果はどの会社のどの製品でも出せる」という場合です。
無意味な数字(1):「数字に根拠がない」という場合
先日、製造現場で活用するソフトウエアの事例で「生産効率30%アップ」というキャッチコピーを見かけました。工場とは、微細なカイゼンを重ねて1銭単位、0.1秒単位のコストダウンを実現している場所です。そこで効率が一気に30%も向上したのならスゴい生産革命です。いったいどんな画期的なソフトウエアなのでしょうか!!
と言いつつも、実はそれほど驚いていたわけではありません。「どうせこれ、適当に言ってるだけだよな」と思いながら事例を読み進めました。
案の定、30%アップの根拠は何も書いてありません。ただ担当者が「生産効率が30%アップしました」と言っていただけでした。
この「30%」とは担当者がリップサービスで言った根拠のない数字と考えるのが自然でしょう。歩留まり30%アップならともかく「生産効率」というあやふやな概念なら、どうとでもいえます。
実は事例インタビューで顧客から「導入効果の数値表現」を引き出すことはそれほど難しいことではありません。どうやるかというと単純に「頼めば」よいのです。
「お客様、事例の説得力を高めるためにも、どうか数値表現をしていただけますでしょうか」と深々頭を下げれば、親切なお客様なら「うーん、じゃあ、効率3割アップとかでどう」と答えてくれます。こちらが頼まなくても、先方が気を利かせて「効率が3割アップしました」と言ってくれることさえあります。
その取材のときはクライアントに、「この3割アップっていう発言、事例に書きますか?」と尋ねてみました。返答は、「書かないでほしい。うかつに3割アップとか書くと、それを読んだ見込み客に根拠を聞かれるから」というもの。数字も重要ですが、その根拠を示すことも重要というわけです。
無意味な数字(2):「その数値効果はどの会社の製品でも出せる」という場合
導入効果の数値表現を書くときには、「これって他社製品でも出せる効果なんじゃないの?」と、自問自答するとよいでしょう。
例えば自動車の宣伝をするとき。「我が社の新車○○なら歩いて1時間のところをわずか3分で到着できます!」といった宣伝はしません。