企業向け事例制作手法を伝授するセミナーで話をするとき、筆者が決まって受講者から受ける質問があります。

 「弊社は、お客様の大半が○○業界で、そこでは●●のような独特の考え方があります。私たちの製品も■■という特殊な使われ方をしています。だから事例出演を依頼をしても□□という理由でたいてい断られます。どうすればよいですか」というものです。

 これはつまり、「ウチの業界は特殊なんだ。だからあなたが言っている一般論のノウハウは通用しない。別の方法を教えてくれ」ということです。

 この質問は、20代の若手担当者がすがるような目で質問してくることもあれば、年配の男性が「おまえにウチの業界の何が分かるんだ?」と攻撃的な口調と目つきで聞いてくることもあります。

 ではこの質問に対して筆者はどう答えるのかというと、いつも、

「いい人がたまにいるから大丈夫です」

と言っています。これは決してその場しのぎの回答ではなく、自分の経験に根ざした本心からの回答です。

 

 筆者は事例制作会社を起業する前、セキュリティ企業のマーケティング部に勤務していました。メールや電話を使って自分で出演依頼をしながら、導入事例を作っていました。中小から大手企業、自治体まで、かれこれ200本ほど自力で事例への出演を依頼し、OKを取り付けて事例を作りました。

 筆者が事例制作に着手する前は、社内に事例記事が非常に少ない状態でした。「営業成績を上げるために、事例記事の数を増やさなければならない」という声が大勢を占めていました。そこで筆者は「じゃあ、私ががんばって作ります」と手を上げたのですが、社内からは「無理なんじゃないかな」という悲観的な意見が相次ぎました。

「導入事例に出ても顧客には何のメリットもない。だから出ない」
「自治体が私企業の広告宣伝に協力するはずがない」
「そもそも我々が販売しているのはセキュリティ製品だ。そのようなデリケートな分野で顧客が使っている製品を公開するはずがない」――。

この先は日経クロステック Active会員の登録が必要です

日経クロステック Activeは、IT/製造/建設各分野にかかわる企業向け製品・サービスについて、選択や導入を支援する情報サイトです。製品・サービス情報、導入事例などのコンテンツを多数掲載しています。初めてご覧になる際には、会員登録(無料)をお願いいたします。