ふと気になって、ITProに掲載された筆者の連載第1回に、改めて目を通してみた(編集部注:6年前はITproの「SNSと企業の一歩進んだ付き合い方講座」の連載として掲載)。タイトルは「ソーシャルメディアの普及と、増加するリスク要因」というものだった。
当時のソーシャルメディアは、まだ“新しいモノ”だった。企業はソーシャルメディアとどう向き合い、その力をどう活用していくべきかというテーマで連載がスタートした。
やがてソーシャルメディアは、“デジタルマーケティング”の一環で実施される施策に、ウェブサイトやメールなどとともに自然に組み込まれるようになっていった。気が付けばソーシャルメディアは“新しいモノ”から“当たり前のモノ”になっており、それだけが単体で語られることも少なくなっていった。
そして今や“デジタルマーケティング”という言葉さえもが死語になる時代に入ろうとしている。企業のマーケティング活動の中にデジタルの要素が当たり前のように組み込まれるようになった今、あえてデジタルだけを切り出して語ることに意味がなくなってきた。
振り返ると連載の第1回の頃から、だいぶ時代は変わったようにも思える。そんな先日、企業の「ソーシャルメディアに関わるリスク」ともいえる話が米国で報じられた。
現地時間2017年10月31日に開かれた、米上院司法委員会の公聴会で、フェイスブック、ツイッター、グーグルの各社幹部がこんな証言をした。「2016年の米国大統領選挙期間中に、ロシア政府に近い団体が米国世論の分断を目的に、大量のフェイクニュースを拡散させていた」――。
具体的にどういった投稿や広告が出稿されていたかは、米下院の諜報委員会が事例として紹介している。これらの広告や投稿をのべ1億2600万人が閲覧した可能性があるとしている。
これだけ広く拡散した背景には、米国民がニュースに接触するメディアが変化したことがある。ピュー研究所(Pew Research Center)による調査によると、米国民の約3分の2(67%)は、ソーシャルメディアを通じて何らかのニュースに接しているという。
半面、この事実はメディアの信頼性を大きく低下させた。米ギャラップ社が2017年6月に発表した調査では、インターネット上のニュースの信頼性に関して「完全に信頼している」、「相当信頼している」の二つの回答を合わせても、全体の16%にしかなっていない。
“新しいモノ”としてソーシャルメディアが登場して以降、誰でも手軽に何らかの情報を発信し、それを手軽に受信できる環境が生まれた。そしてこれまでは、その“新しいモノ”を使いこなし、発信することが“一歩進んだ付き合い方”だとされてきた。
しかし今、企業は改めてデジタルとの付き合い方を真剣に考えてなくてはならないときを迎えた。米大手広告主企業が、自社のブランド価値を守るため、フェイクニュースを掲載している媒体への広告掲載を避け、運用型広告を中心にデジタル広告費を削減する動きを始めたことが、その一例といえる。これからは、ときに応じて “一歩退く”ことも求められるだろう。